植物研究助成

植物研究助成 31-20

気候帯を超えて分布する植物種の周縁的種分化プロセスの検証

代表研究者 東北大学 学術資源研究公開センター
助教 伊東 拓朗

背景

 周縁的種分化とは、ある種の分布域の中で周縁部に位置する小集団が新たな生育環境へと進出し、異なる種へと分化する過程を指す。気候帯を跨いだ島嶼群を有する日本列島において、多くの生物種が当該種分化を経験していると考えられ、その過程を明らかにすることは日本の植物の多様性がいかにして生み出されてきたかを考える上で解決すべき課題である。申請者は、上記を検証するモデルとして、ベンケイソウ科マンネングサ属の2種(ハママンネングサ、タイトゴメ)が温帯と亜熱帯の境界域にあたる九州南部と奄美群島の集団間で気候帯に即した異なる生理特性(耐寒性)をもち、周縁種分化の初期にある可能性を見出している。

目的

 本研究では、上記2種を対象として①気候帯を跨いだ集団間の耐寒性の定量及び、②集団ゲノミクスによる個体群動態及び種分化プロセスの推定を行うことで、周縁的種分化の初期過程の検証を行う。また、周縁集団について進化的重要単位としての保全生物学的評価を併せて行う。

方法

 現地調査:九州-奄美群島を中心に遺伝解析及び生理実験用植物を収集する。
耐寒性の定量:主に気候帯の境界を跨いだ複数集団から得た種子を播種し、低温ストレス処理下における光合成特性の定量を行うことで気候帯に即した適応形質を明らかにする。
集団ゲノミクス:ゲノムワイドな遺伝情報を用い、集団間の分岐年代及び遺伝子流動の有無等を推定し、周縁集団の分化過程を推定する。

期待される成果

 本研究は気候帯を跨ぐ島嶼群を有する日本列島だからこそ可能な周縁種分化プロセスの検証であり、実際に気候帯に即した適応的な分化を実証できれば、日本の植物の多様性創出機構の一端を明らかにできることが期待される。さらに上記2種の周縁集団が独自の生理特性を持つことが示された場合には、進化的重要単位として保全価値を示すことにつながり、保全生物学的意義も大きい。