植物研究助成

植物研究助成 31-21

DNA多様性解析に基づくキクタニギク日本在来系統の識別

代表研究者 高知大学 教育研究部自然科学系農学部門
准教授 中野 道治

背景

 キクタニギク(Chrysanthemum seticuspe,アワコガネギク)は、日本国内の東北から九州北部にかけて隔離分布している。国内での自生地は限られ環境省において準絶滅危惧 (NT)に分類されているが、その一方で中国や韓国の系統が法面緑化種子に混入して導入されたことで本来の自生地以外に分布を広げており、侵入生物としても分類されている。日本国内産と中国・韓国産の系統は、外見的に極めて類似しており、「準絶滅危惧種と侵入生物のキクタニギクのどちらか?」の識別は、日本在来のキクタニギクを保護する上で重要な情報となる。

目的

 「準絶滅危惧種と侵入生物のキクタニギクのどちらであるか?」を区分するための技術を開発する。ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)広義キク属で保有する中国産のキクタニギクは、日本産と比べて1〜2か月程度開花期が早いが、その他の特性は日本産系統と区別できない。一方で地域固有の変異が集積している可能性が考えられるため、本研究では、全ゲノムを網羅する多型検出を行うことで移入系統特有の変異を検出する。検出された多型を元に産地識別が可能なDNAマーカーを開発し、今後の産地保護に役立てる。

方法

 キクタニギクは、NBRP広義キク属の公開系統を利用する。移入分布の系統は環境省の侵入生物データベースに掲載されている地域より採集するが、採集に当たっては関係省庁等への事前申請及び広島大を中心とした野生ギク研究ネットワークより助言を得て行う。各系統の葉よりゲノムDNAを抽出し、キクタニギクGojo-0の全ゲノム配列をリファレンスに用いてRAD-seq解析による多型検出を行う。得られた多型データを用いて多様性解析を行い、使用系統の関係性を明らかにする。また開花期に採種し苗を育成することで形態的特性・開花期の評価を行い、在来系統と移入系統の間での差異を調べる。

期待される成果

 キクタニギクは日本各地で移入分布が認められており、本来の自生地を保護するためには在来系統と移入系統の識別が必要である。本研究では次世代シークエンサを用いてキクタニギクの種内変異を検出し、中国、韓国、日本の系統を識別できる多型の検出を目指す。この多型が検出でき、識別可能となれば、日本在来ではない移入のキクタニギクを駆除するための根拠となり、日本在来のキクタニギクを保護することにつながると期待される。