植物研究助成

植物研究助成 32-01

異なる常緑林タイプの樹木肥大成長の季節性および温暖化影響評価

代表研究者 京都大学 生態学研究センター
教授 石田 厚

背景

 近年、温暖化による熱波や干ばつ、大型台風や集中豪雨といった極端な異常気象による樹木枯死や森林衰退が、世界各地のバイオームで報告されている。現在、森林生態系変化の将来予測や森林修復の技術開発のため、異常気象に対する樹木衰退の生理機構の解明が世界的にも重要視され、小笠原の亜熱帯で研究を行ってきた。しかし亜熱帯林や熱帯林の樹木では、幹の肥大成長がどの季節で行われ、気候変動が樹木成長にどのような影響を与えるのか、世界的にも全く知見がない。そのため異常気象のタイプやタイミングが、亜熱帯林や熱帯林樹木の成長や衰退にどのように影響を与えるのか、未だ不明のままである。

目的

 伊豆の照葉樹林から小笠原諸島の亜熱帯林といった、似た経度に沿い緯度の異なった森林生態系を構成する成木を用い、樹木の幹の肥大成長の季節性、土壌乾燥に伴う幹肥大成長への影響評価を行う。これにより、1)照葉樹林や亜熱帯林樹木の幹肥大成長のフェノロジー(季節性)を明らかにするとともに、2)乾燥やゲリラ豪雨、大型台風といった異常気象イベントが照葉樹林樹木の肥大成長に与える影響を明らかにする。

方法

 伊豆の照葉樹林にて、成木の幹部にデータロガー付精密デンドロメータを設置、またその近辺の土壌にロガー付土壌水分計を約10cmの深さに埋め込む。
これらのデータを1時間ごとに、通年自動測定する。デンドロメータは歪み計を持ち、その歪み計に細いワイヤーをつけ、そのワイヤーを幹に巻き付けることで、幹の肥大成長や収縮までも精度高く測定できる。また光や気温、降水量といった気象データは、測定場所に最も近い気象庁のデータを利活用する。小笠原諸島の亜熱帯林では科研費によりすでに同様の調査を開始しており、似た経度を持ち緯度の異なる熱海で調査を行うことにより、異なったタイプの常緑樹林の間で、幹肥大成長特性の比較を行う。

期待される成果

 照葉樹林や亜熱帯林樹木の肥大成長の季節性が世界で初めて明らかになるばかりでなく、異常気象が樹木成長に及ぼす影響が査定できる。これにより、温暖化による気象変動がこれら樹木の成長や衰退にどのような影響をもたらすのかを明らかにし、温暖下での将来の森林組成や機能の変化予測の向上に役立てる。