植物研究助成

植物研究助成 32-05

クロマツにおける日常的な蒸散活動に対する幹および葉の貯留水利用特性

代表研究者 神戸大学 大学院農学研究科
助教 東 若菜

背景

 背の高い樹木(高木)では根から葉への通水距離が長いため、葉の蒸散要求が急激に高まると幹における通水機能が制限されることがある。これは「水分通導制限仮説」として樹木の樹高成長の制限要因の一つであると考えられている。一方、通水経路内に貯留水があれば、通水機能の損失を回避できる可能性がある。しかし、国内外においても研究事例は非常に限られており、未だどのような条件において、どのような種において幹の貯留水が日常的に利用されうるかについて一般的な理解は得られていない。

目的

 前年度の調査から、高木種クロマツでは幹の貯留水が日々に蒸散活動に利用され、蒸散要求の大きい高木ほど貯留水の寄与が大きくなることが明らかとなった。そこで本研究では、以下に着目して理解を深める。
幹の放射方向の伸縮とその箇所における樹液流の日変化パターンを比較することで、内樹皮の貯留水が樹液流を介して蒸散活動に利用されるメカニズムについてより詳細に検証する。
葉の貯留水利用の寄与についても検証することで、個体全体の水利用特性の理解を深める。
高温や無降雨といった環境変動に対する応答を検証する。

方法

 植物研究園内に生育する、樹高の異なるクロマツ4個体(樹高2.6m、11.6m、20.3m、22.1m)を調査対象とする。幹の貯留水利用の評価では、高解像度の一点式デンドロメーターを用いて日常的に生じる微小な幹の伸縮を計測すると共に、木部を流れる樹液流速度をヒートパルス法によって計測する。葉の貯留水利用の評価では、各調査木の様々な高さから葉を採取して解剖学的測定をおこなうと共に、プレッシャーチャンバー法により葉の生理学的な貯水性やしおれ耐性といった潜在的な水分生理特性を評価する。

期待される成果

 近年ますます懸念されている気候変動にともなう樹木の成長や生存に対する影響を理解するためには、樹木の成長に関わる制限要因の把握のみならず、それらに応じた樹木の補償メカニズムの理解が必然である。本研究は、生理学的観点から高木種の成長における適応性を評価することにつながると期待される。