植物研究助成

植物研究助成 32-08

作物生育診断のための圃場音響モニタリング技術の開発

代表研究者 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
北海道農業研究センター
研究員 村上 貴一

背景

 作物圃場内で過ごしていると植物が生育状態に応じて様々な音を発していることに気付く。北海道のコムギ栽培を例に挙げれば、群落が充実する初夏に風が吹けば緑葉のこすれる「さらさら」という音が大きくなり、収穫に近づいて葉が枯れ上がるにつれて葉音は「からから」という乾いた音へと変わる。また収穫適期の穂からは、穎と子実が剥離する際の弾けるような「ぱちぱち」という音が聞こえてくる。圃場に密に接する研究者や生産者はこれらの例のような聴覚情報が作物の生育状態を反映していることを経験的に理解している。以上のように、圃場内の音響データは群落構造の把握や収穫適期の判定に利用可能な情報を含み、圃場音響モニタリングは非破壊・安価・省力的・リアルタイムな植物生育診断のための新たなテクノロジーとなりうる。しかし、圃場における音響データと植物生育状態との関係を精査した研究例はこれまでになく、基礎的な圃場音響特性を記述した例すら見当たらない。

目的

 圃場音響モニタリングの植物生育診断への利用の可能性を検討することを目的とする。北海道の秋まきコムギを対象として出穂期前後の葉面積指数と登熟期の子実乾物率を音響データから推定する手法を開発することを試みる。

方法

 品種・施肥設計により群落構造と早晩生の異なるコムギ試験区を設け、群落内に設置されたボイスレコーダによる継続的な音響計測を行う。計測には一般的なボイスレコードを使用し、可聴領域の周波数帯を計測対象とする。音響計測を並行して、植物体が旺盛に展葉する出穂期前後に群落の受光特性指標となる葉面積指数を、植物体が枯れ上がる登熟期前後に収穫適期の判断材料となる子実乾物率を、それぞれインターバル計測する。音響データと気象データを説明変数、葉面積指数と子実乾物率を従属変数とするモデリングにより、両者の関係を定量的に説明するモデルを作成する。

期待される成果

 本研究はこれまでの植物研究分野でほとんど利用されてこなかった聴覚に着目しており、新しいアプローチでの植物研究の可能性を検証する。より直接的には、本研究で開発されるモデルは、受光特性評価・収穫適期判定のためのスマートフォンアプリのような応用技術の開発に繋がる。