植物研究助成

植物研究助成 32-12

動的光散乱干渉画像法を用いたマイクロプラスティックの植物への毒性評価

代表研究者 埼玉大学 大学院理工学研究科
教授 門野 博史

背景

 環境汚染物質として近年マイクロプラスティック(MPs)による海洋汚染が注目を集めている。しかし、MPsの問題は海洋だけではない。農業ではマルチングやビニールハウスに大量のプラスティックが使用されてきた。生分解性プラスティックは微生物の作用により時間を経て細片化・分解されるがその過程では海洋のMPs同様の問題を呈することは想像に難くない。一方、殺菌・消毒剤、化粧品、農業においても亜鉛や銀などの重金属ナノ粒子が用いられ土壌環境に流出している。しかし、これらのMPsとの相互作用はほとんどわかっていない。

目的

 本研究の目的は、応募者が提案する高感度な光学干渉手法である動的光散乱干渉画像法(DLSII)を用いることにより、植物の発芽あるいは成長の極初期段階で非破壊・非接触かつリアルタイムで土壌中のMPsおよび重金属とそのナノ粒子などによる複合汚染が、植物や農作物に与える毒性を早期に評価する手法を開発することである。

方法

 本研究では、従来ノイズとして除去されていたバイオスペックル現象と低コヒーレンス光源を用いた干渉法により植物試料内の断層画像を得ることにより、植物試料内の活性状態をモニタする。本手法によりMPsや重金属で汚染された土壌の植物に対する毒性の新たな評価法および毒性緩和法の創出を試みる。種々あるMPs材料やZnO、AgO、TiOなどのナノ粒子との複合作用を調べる。その結果を、従来法の植物の生化学的ストレス評価法やMPsの吸収・吸着をSEMおよび蛍光顕微鏡を用いて観察することにより有効性を検証する。

期待される成果

 これまで土壌のMPsの実環境での軽微な影響を評価する手法が開発できていなかった。本研究は、このような学術的あるいは社会的要求に応えるものである。本手法により、植物の発生の早期においてマイクロプラスティックや土壌の重金属汚染による毒性の正確なモニタが可能となれば、汚染対策に活用できる他、土壌汚染に耐性のある作物品種のスクリーニングにも応用可能である。
加えて、金属ナノ粒子とMPsとを複合暴露することによりMPsの毒性を打ち消す可能性が予備実験により示された。これにより複合暴露による毒性のみならず適切に制御することによりMPsの毒性緩和が期待される。