植物研究助成

植物研究助成 32-15

AI プロテオミクスによる植物の生育・健康診断法の開発

代表研究者 東京工業大学 生命理工学院
教授・副学長 林 宣宏

背景

 人の病気の早期診断や健康状態のモニタリングを目的に、プロテオミクス(二次元電気泳動)データ画像のAI認識技術を用いたタンパク質プロファイル法の開発を進めている。AIにより、人が気づくことのできない病態の変化をハイスループットにモニタリングできる(AIプロテオミクス法)。先に本手法により敗血症の早期診断に成功しているが、AIプロテオミクス法は、論理的には農作物の生育・病徴・健康診断にも用いることが可能である。

目的

 AIプロテオミクス法により、植物の生育・健康診断ができるかどうかを確かめる。本研究では、材料にオオムギを用い、難防除性の土壌伝染性病のオオムギ縞萎縮病に罹患して健康状態が悪化した個体と、病気にかからず健全に生育した個体との間で、タンパク質のプロファイルの比較を行い、健全に生育している個体と、罹病し成育が阻害された個体の間で、播種してから早い時期の病徴の現れる前に病気の診断が可能かどうかを確かめる。

方法

 本研究では、以下の3課題を実施する。
① オオムギを通常圃場と検定圃場(縞萎縮ウイルス病汚染圃場)で育て、病徴が顕著となる3月に異なる抵抗性遺伝子をもつ国内外複数品種のオオムギの葉及び根を採取、罹病品種から罹患由来の二次元電気泳動像上のスポットを探索、同定し、現行の手法より高感度の診断手法を開発する。
② 複数品種からプロファイルを取得し、品種横断的に、または特異的に、通常圃場と検定圃場間で異なるプロファイリングが見られるタンパク質スポットをAIで探索し、縞萎縮ウイルス病に関する新たな知見を獲得する。
③ 年間を通じて収穫した検体を当該手法で調べることにより、早く正確で簡便な罹病判定技術を開発する。

期待される効果

 これまでの農業における作物への対処(病気の発症時には作物は廃棄する、など)を大きく変える可能性がある。それにより、近未来のスマート農業で不可欠な作物の状態のリアルタイムでの把握と有事(病気の蔓延、など)の際の迅速な対応のための生育の診断(健康状態の把握)においても、自動化のみならず、省力化や生産率の向上を実現する。