植物研究助成

植物研究助成 32-16

絶滅危惧種ソナレセンブリの種間関係と遺伝的多様性の解明

代表研究者 千葉大学 大学院園芸学研究院
助教 渡辺 洋一

背景

 伊豆半島・伊豆諸島と周辺地域は、フォッサマグナ地区と呼ばれている。この地区には、固有な植物群(フォッサマグナ要素)が200種ほど知られている。これらの種の多くは非常に限られた分布を有し、環境省の絶滅危惧種に指定された種も多い。ソナレセンブリはリンドウ科センブリ属に含まれる種であり、伊豆半島の南端および伊豆諸島の1島にのみ分布が知られた希少種・環境省の絶滅危惧種である。

目的

 本研究では、ソナレセンブリの保全のための基礎情報を整備することを目的とする。そのために、(1)属内の種間関係・種分化過程の解明、(2)種内の遺伝的多様性の解明を行う。

方法

 センブリ属に含まれる種間の系統関係は不明であり、ソナレセンブリの近縁種や種分化の過程は形態に基づく示唆しか得られていない。そこで、国内および海外の種に分布するセンブリ属を対象に葉緑体全ゲノムの遺伝子配列を用いた系統解析を行い、種間の系統関係およびソナレセンブリの最近縁種を解明する。国内産のセンブリ属の種の葉緑体ゲノムは次世代シークエンサーを用いて解読し、海外産の種のゲノムは既に公表されている50種超のデータを用いることで信頼性の高い系統樹を推定する。
 ソナレセンブリの分布は、伊豆半島と伊豆諸島それぞれ1地域ずつに自生地が知られているのみであり、非常に絶滅リスクが高い。そこで、それぞれの地域内の遺伝的多様性と地域間の遺伝的分化を評価し、保全の基礎情報とする。遺伝実験には、核ゲノム全体から多数の塩基置換変異を調べられるMIG-seq法を用いる。

期待される成果

 ソナレセンブリを含む国内のセンブリ属の種を含めた系統解析を行うことは、ソナレセンブリの種分化過程の理解だけでなく、センブリ茶などで知られるように薬用的な価値が高いセンブリ属を利活用するための基礎知識として非常に重要である。保全のためには、自生地の保護と併せて遺伝的多様性の低下が生じているか?遺伝的多様性の低下が今後どのように種の存続に影響するか?評価することが必要であり、これらは保全管理を行うための基礎知識となる。