植物研究助成

植物研究助成 32-18

気候変動による酸性土壌突破に向けた分泌性多糖類による毒性金属緩和機構の解明

代表研究者 筑波大学 生命環境系
准教授 岩井 宏暁

背景

 地球温暖化に伴うゲリラ豪雨が原因で引き起こる土壌の酸性化により、毒性重金属が溶出する。溶出した金属イオンは植物の成長を阻害する。申請者は、土壌酸性化による毒性金属イオン成長緩和の新規の機構として、イネの根から分泌されるペクチンがアルミニウムの根への吸着を防いでいることを突き止め、さらに、毒性金属の一つである銅のリアルタイム元素動態解析に成功した。一方、毒性重金属にさらされたイネは、折れやすい予備データが得られた。他方、実際の現場である茅場でも、野生のイネ科植物である茅の強度が酸性雨により、近年折れやすい性質を示すようになり、建築材としての性質が低下してきている。しかし、その茅葺きの持続性を脅かす茅の質低下が観察され、原因として重金属イオンと細胞壁成分との関連性があるのではと考えられている。

目的

 分泌性の多糖類や糖鎖が金属と結合し排除するという新しい毒性緩和方法のメカニズムの解明に挑むことで、現在の気候変動による土壌の酸性化に伴う収量減少課題のブレークスルーを目指す。さらに、野生のイネ科植物である茅を用いて、茅葺きの持続性を脅かす環境変動による茅の質低下原因の解明を行う。

方法

 (1)ペクチン改変イネを用いた毒性金属緩和動態の観察、(2)細胞壁改変イネと金属輸送体変異イネを用いた分泌性多糖類による金属排除過程の可視化、(3)細胞壁センサーによる毒性金属伝達分子機構の解明、(4)特性変化した茅の解析:1)日本各地の茅場の力学的強度が変化した茅とその土壌のサンプリングを行う。2)それらの土壌の重金属組成を解析、3)茅の強度測定と、茎の細胞壁化学組成分析を行う。

期待される成果

 本研究の成果により、細胞壁をデザインすることによる生命金属毒性緩和イネの作出し、酸性土壌突破するための農業に大きく貢献する。また、本申請である茅葺きの持続性を脅かす環境変動による茅の質低下原因の解明の研究を進めることで、各茅場の土壌をどのように改良することで茅場の質の低下を防げるかについて、生理学的、生態学的なアプローチを行うことで、学術的な成果が見込まれるだけでなく、茅場の持続性の維持に貢献し、SDGsの目標の達成にも大きく貢献していく効果があると考えている。