植物研究助成

植物研究助成 32-19

黒潮大蛇行が海藻の種組成や集団構造に与える影響の評価

代表研究者 東京海洋大学 学術研究院海洋環境科学部門
教授 神谷 充伸

背景

 黒潮大蛇行は、黒潮と本州南岸の間に大きな冷水渦が居座ることによって、黒潮が迂回して流れる現象であり、2017年8月より始まって現在も継続している。黒潮大蛇行が起こると、関東・東海沿岸では例年より水温が高くなり、沿岸生態系に影響を及ぼすことが知られている。過去の記録でも、伊豆半島において黒潮大蛇行が起こった期間に藻場の衰退が報告されており、それに伴ってアワビなどの漁獲量も激減している。
 黒潮大蛇行がコンブ類やホンダワラ類などの大型海藻に与える影響についてはある程度の知見はあるが、潮間帯に生育する小型海藻についてはほとんど調べられていない。水深2メートル前後の潮間帯の岩礁域は100種類以上の海藻に覆われ、それを利用する無脊椎動物も多岐にわたっており、熱帯雨林に匹敵するほどの生物多様性があるといわれている。現在、黒潮大蛇行は5年以上続いているが(観測史上最長)、近々に収束すると予測されているため、黒潮ルートの変化が潮間帯生物に与えるインパクトを解明するのに絶好のタイミングと考えられる。

目的

 伊豆半島の潮間帯に生育する海藻の種組成、季節的消長パターン、遺伝的多様性を3年間調査し、黒潮大蛇行が潮間帯の海藻に与える影響を評価する。

方法

①海藻調査:黒潮大蛇行の影響が異なる2地点(下田市と御前崎市)で季節ごとに3年間調査を行う。各地点の海藻相、形態、成熟率の季節変化を調査する。
②環境調査:サンプリングごとに各地点で生育環境(水温、光強度、塩分、溶存酸素、波浪強度)を調査し、①の調査結果との関連性を評価する。
③集団遺伝学解析:黒潮大蛇行前と比べて集団が著しく縮小した海藻種について集団遺伝学的解析を行い、集団構造の経時的変化を調査する。

期待される成果

 黒潮大蛇行が潮間帯の生物多様性にどのような影響を及ぼすかを解明することは、長期的な環境変動の影響評価や環境保全対策に役立つ。また、集団が著しく縮小した場合、遺伝的浮動の作用により遺伝的変異の量が減少することが知られており、黒潮大蛇行が海藻群落の集団構造に与える影響を評価できれば、海藻で初めての知見となり、生態学分野に与えるインパクトは大きい。