植物研究助成

植物研究助成 32-20

シカ不嗜好性植物がもたらす他樹種の生存・生育への影響
〜群落管理に向けたレガシー効果の分離検証と2地点での評価〜

代表研究者 宮崎大学 キャリアマネジメント推進機構
テニュアトラック推進室
准教授 徳本 雄史

背景

 国内の森林の多くでシカの食害により下層植生が消失し、シカが摂食しない植物(シカ不嗜好性植物)が増加している。シカ不嗜好性植物の一種で、器官内に中毒性のある物質を含むアセビ(Pieris japonica, ツツジ科))が森林下層で優占している林分が多く見られる。アセビが優占する林分は、雨滴による土壌浸食の防止や炭素吸収などの生態系機能がある一方で、生物多様性は非常に低い。優占するアセビを伐採して他樹種の新規加入を促進させる方法が考えられるが、アセビが繁茂している場所では何らかの要因で他の植物が生育していない。そのためアセビ伐採後の生態学的遺産効果(レガシー効果)を考慮せずに伐採することは他樹種の発芽・生育不良や、その後の表層土壌の露出による土壌浸食を引き起こす恐れがある。そこで本申請研究では、アセビの種特性とレガシー効果を明らかにし、今後のアセビ群落の管理への提言に供する。

目的

 本研究ではアセビ伐採後の他樹種へもたらすレガシー効果を評価し伐採後の状態予測に資するため、1)発達したアセビ群落で伐採実験を行い、その後の環境変化と他樹種の動態への影響を明らかにし、2)アセビ群落が発達することによる環境変化について、それぞれが他樹種に及ぼす影響について明らかにする。

方法

 調査は宮崎県椎葉村と兵庫県神戸市において実施する。
1)野外調査:アセビの地上部を伐採した場所としていない場所で、実生・稚樹動態、土壌化学分析と物理環境、微生物相、根などからの滲出物と腐植中の有機酸の定性定量分析を実施し、アセビ群落を伐採した後の変化を評価する
2)操作実験:アセビ繁茂に伴う土壌の腐植、根の滲出物、微生物相の変化による影響を、他種の種子を用いてシャーレ上で発芽に影響があるかを検証する。

期待される成果

 アセビ群落の管理に対して、生物多様性を保全しつつ、土壌侵食の防止も両立させるような提言が期待される。