植物研究助成

植物研究助成 32-21

気候帯を超えて分布する植物種の周縁的種分化プロセスの検証

代表研究者 東北大学 学術資源研究公開センター
助教 伊東 拓朗

背景

 周縁的種分化とは、ある種の分布域の中で周縁部に位置する小集団が新たな生育環境へと進出し、異なる種へと分化する過程を指す。気候帯を跨いだ島嶼群を有する日本列島において、多くの生物種が当該種分化を経験していると考えられ、その過程を明らかにすることは日本の植物の多様性がいかにして生み出されてきたかを考える上で解決すべき課題である。申請者は上記を検証するモデルとして、ベンケイソウ科マンネングサ属の2種が温帯と亜熱帯の境界域にあたる九州南部と奄美群島の集団間で気候帯に即した異なる生理特性(耐寒性)をもち、周縁種分化の初期にある可能性を見出している。

目的

 本研究では上記2種を対象として事前研究から明らかになった異なる耐寒性をもつ集団間において、全ゲノムスケールの集団遺伝解析により、①個体群動態及び集団分化プロセスの推定、②異なる生理特性をもたらした原因遺伝子座の推定を行うことで、周縁的種分化の初期過程の検証を行う。また、事前研究のトカラ列島調査から、③従来本研究対象種として扱われてきた未記載分類群を見出しており、併せて当該種の実体解明を行う。

方法

 現地調査:主にトカラ列島の未記載分類群について形態比較及び遺伝解析用植物を収集する。未記載分類群の実体解明:形態比較及び系統解析から、分類学的再検討を行う。集団全ゲノム情報の取得:対象種2種各1個体について、TGSで得た配列を用いてドラフト全ゲノムの構築を行う。さらに、構築したドラフト全ゲノムに各種複数集団のNGSで得た全ゲノム配列を張り付け、集団全ゲノム情報を得る。適応遺伝子座の検出:上記集団全ゲノム情報を基にゲノムワイド関連解析を行い、生理特性の分化に寄与した遺伝子座の検出を行う。

期待される成果

 本研究は気候帯を跨ぐ島嶼群を有する日本列島だからこそ可能な周縁種分化過程の検証であり、実際に気候帯に即した適応的な分化を遺伝子レベルで実証できれば、日本の植物の多様性創出機構の一端を明らかにできることが期待される。さらに本研究で実体解明を行う未記載分類群はトカラ列島の数島のみに分布が限定されており、本研究成果は当該地域における植物の独自性や見過ごされてきた種多様性を改めて評価するもので、その保全生物学的重要性は高い。