植物研究助成

植物研究助成 32-22

簡便に誘導できる植物再生技術の確立

代表研究者 東洋大学 生命科学部 応用生物科学科
教授 梅原 三貴久

背景

 植物の再生技術は、種子を得にくい植物、遺伝子組換え植物、商業価値のある植物の増殖に必要不可欠な技術である。通常、植物体の再生を誘導するためには、培養培地に器官形成に関わる植物ホルモンのサイトカイニンを添加する必要がある。しかし、薬用植物トコン(Carapichea ipecacuanha (Brot.) L. Andersson)は、茎を切り出して植物ホルモン無添加の培地に移植するだけで植物体を容易に再生できる。したがって、再生中の内生植物ホルモンの動態や遺伝子発現変動を調査すること、外から添加した生理活性物質の影響を直接評価することができる。そこで不定芽形成中の遺伝子発現解析と植物ホルモン分析を行った結果、切り出した茎の内生サイトカイニン量が一過的に増加することを明らかにした。また、この内生サイトカイニンの増加には茎の維管束が必要であること、サイトカイニンの生合成遺伝子は表皮組織で発現することを明らかにした。

目的

 本研究では、トコンの植物体再生系をモデルケースとし、切り出した茎の断片の内生植物ホルモン量および器官形成に関わる遺伝子の発現変動を解析することで、植物組織を切り出すだけで植物体再生が始まる仕組みを解明する。また、ケミカルライブラリーをもとに新規植物体再生誘導物質を探索する。

方法

 植物体再生初期に内生サイトカイニンが一過的に増加するためには、サイトカイニン生合成酵素遺伝子の転写を活性化する必要がある。サイトカイニン合成酵素遺伝子の転写調節因子を同定し、トコンの表皮組織における内生サイトカイニンの生合成調節メカニズムを明らかにする。さらに、東京大学創薬機構のケミカルライブラリーからトコンの植物再生率を高める化合物を探索する。

期待される成果

 本研究で、トコンの茎を切り出すだけで植物体が簡単に再生するシステムを明らかにする。また、植物体再生効率を向上させる新規生理活性化合物を見つける。植物の再生を簡単に誘導できれば、地球環境の変動や人為的な環境汚染による絶滅危惧植物の増殖や重要な植物遺伝資源の保存、持続可能なみどりの回復・再生に貢献できる。トコンのユニークな特徴を最大限に活用し、将来、iPS細胞の山中ファクターの植物版とも言える植物体再生因子を新たに同定し、特別な技術を必要としてきた組織培養分野におけるブレイクスルーを目指す。