植物研究助成

植物研究助成 32-23

植物-病原体-昆虫の相互関係におけるウイルス感染の影響評価

代表研究者 新潟大学 自然科学系(農学部)
助教 湊 菜未

背景

 植物に感染して病気を引き起こすウイルスの多くは昆虫によって伝搬される。昆虫伝染性ウイルスを中心とした「植物-ウイルス-媒介昆虫」の相互関係において、媒介昆虫は唯一能動的に移動・拡散する能力を持つ。したがって昆虫伝染性ウイルスは、媒介昆虫の寄主植物選好性を操作することにより自身の感染拡大を画策するが、このような病原体を介した種間相互作用が生態系の植物・昆虫群衆構造に与える影響については未だ知見が乏しい。

目的

 本研究の目的は、1)ウイルス感染による生態系への影響評価、2)ウイルスによる植物および媒介昆虫における包括的遺伝子発現変動プロファイルの解析、3)ウイルス感染植物由来誘引・忌避化合物の非媒介昆虫に対する影響の解析の3点によりウイルスによる昆虫の植物寄主選好性操作メカニズムとそのインパクトを明らかにすることである。

方法

 本研究では、ムギ類を侵す2種のウイルス、宿主植物としてコムギ、および媒介昆虫・非媒介昆虫を用いて3項目について解析を実施する。ウイルス感染が生態系中の植物・媒介昆虫・非媒介昆虫に与える影響を評価するほか、ウイルスの感染または保毒が植物・昆虫の両面に影響して昆虫の寄主選択行動を操作する機構を調べるため、遺伝子発現変動プロファイルの解析を行う。さらに、非媒介昆虫を用いてウイルス感染により植物から放出される揮発性有機化合物について誘引・忌避効果を検証する。

期待される成果

 本研究はウイルスの媒介昆虫操作戦略が非媒介昆虫と周囲の生態系に与える影響を明らかにするものである。前年度助成課題において媒介昆虫の植物の揮発性物質に対する感受性はウイルス保毒によって変化することを見出しており、ウイルスに対する宿主植物・媒介昆虫の応答が生態系において植食性昆虫の群衆構造をも変化させる可能性が考えられる。植物病の甚発生に起因する植食性昆虫の行動変化により脅かされる植物生態系の保全に向けて、虫媒性病害・虫害に対する統合的防除技術の構築に向けた足掛かりとなることが期待される。