植物研究助成 33-07
葉脈のネットワーク構造の非破壊計測及び定量化方法の開発
代表研究者 | 九州大学 大学院理学研究院 助教 野下 浩司 |
【 背景 】 |
葉脈は階層的なネットワーク構造を示し,透水性や蒸散効率に寄与する重要な葉関連形質である.被子植物においては多様な分岐パタンが観察されるが,葉脈の形態的な多様性には無限の自由度があるわけではなく,複数の機能的要請や形成効率のトレードオフの下,制約を受けおり,形態空間(morphospace;ありうる形態のスペクトラム)の一部に偏って分布していると考えられる.葉脈の形態的多様性と制約を明らかにするに,定量的な評価による形態空間内での分布パタンの解明が求められる. |
【 目的 】 |
本研究では,葉脈のネットワーク構造の非破壊計測及び定量化方法の開発により葉脈ネットワーク構造の多様性を解明し,葉脈ネットワークの多様性と制約,機能性と環境要因の関連の解明を目指す. 先行研究ではシンプルな計測が主流であるが,我々は本質的な構造に即した定量化により葉脈特有の潜在空間を5属5種において特定することに成功している(Iwamasa & Noshita 2023 PLoS Comput Biol.).本研究では,これを全球的な規模に展開し,先行研究で見出した形態的な規則性がどこまで一般化できるかを明らかにするための非破壊計測及び定量化手法を開発する. |
【 方法 】 |
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申請者らはこれまでに染色・非染色の葉画像から葉脈ネットワークを定量化する手法を開発してきた.本手法は,領域分割向け深層学習モデルU-Netによる葉脈領域の自動認識,細線化とネットワーク抽出による無向グラフ化,ネットワーク特徴量による定量化からなる.本研究では,この手法をより多様な種・多数の葉へ適用できるよう非破壊計測方法として拡張する.透過光による撮影と複数画像の合成,画像の品質チェックの前処理とノイズに対してもロバストな深層学習モデルの学習をおこない,既存手法の汎用性を高め,非染色標本から可能な限り有用な情報を抽出する.画像から抽出された葉脈ネットワークを定量化し,その形態空間中での分布パタンや種間,系統間での分布の差異を明らかにする. |
【 期待される成果 】 |
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本研究では,透過光を用いた撮影と深層学習ベースの葉脈抽出,画像解析を組み合わせた非破壊計測手法を開発する.本研究で開発される非破壊計測手法を活用することで,葉脈画像からの網羅的定量化,葉脈ネットワーク構造の多様性の解明,環境情報との関連解析へと展開することが期待できる. |