植物研究助成

植物研究助成 33-08

超暴風台風による樹木風倒メカニズムの分析と被害林再生戦略の検討

代表研究者 千葉大学 教育学部
助教 田邊 純

背景

 地球温暖化による日本列島南岸の海水温の上昇は,超暴風台風の本州への上陸を増加させている。令和元年房総半島台風は千葉県を中心に大量の倒木を引き起こし,広域長期の停電により社会生活に大きな影響があった。森林の気候変動適応を考える上でも,強大台風に対する常緑広葉樹の風倒メカニズム研究は重要である。これまで,常緑広葉樹の抗力係数―風速あたり風荷重の受けやすさの指標―を測定し,樹幹に付加される曲げ応力を推定することで幹折れリスク評価を行なってきた。森林環境は多様であることから,幹折れリスク評価の精度を高めるには,様々な条件を考慮して検討する必要がある。

目的

 本研究では,ドローン等を用いた樹形の詳細な計測および樹幹材質が樹木の抗力係数の変動要因を明らかにすることを目的とする。また,引倒し試験を行い寝返り被害のリスクを検討する。

方法

 本申請年度は,樹冠の不均一性などの樹形因子および樹幹材質が抗力係数に及ぼす影響を考察する。また,風害リスク評価において,根返り被害の検討も重要であることから,立木の引き倒し試験を行い,立木の諸形質が寝返りモーメントに及ぼす影響を明らかにする。
 具体的には,千葉県袖ケ浦市の広葉樹林において,野外試験による抗力係数,三次元的な樹冠(枝密度や詳細な樹幹形状),および樹幹材質を測定する。これらを多変量解析することで,抗力係数の樹種および個体間差に及ぼす諸因子を明らかにする。また,千葉大学松戸モデル試験林と千葉市内屋上緑化地において,常緑広葉樹立木の引き倒し試験を行い,根返りが生じる限界モーメントを計測し、土層構造および根系形状との関係を検討する。

期待される成果

 風倒害リスク評価は針葉樹造林地に関するものが多い。一方,広葉樹林の抗力係数の変動メカニズムを検討することは,広葉樹林―里山や緑地帯を含む―の今後の管理において,非常に貴重な知見を提供できることが期待される。