
植物研究助成 34-03
UAVレーザースキャナを用いた植生帯境界における森林構造の把握
代表研究者 | 東京都立大学大学院都市環境科学研究科 教授 吉田 圭一郎 |
【 背景 】 |
地球温暖化にともなう気温上昇により、山地植生は高標高へと移動しつつある(IPCC 2022)。この植生分布の変化は、主に植生帯境界における森林構造の変化によって生じ、地形に応じて複雑なものになることが指摘されている。 常緑−落葉広葉樹林の植生帯境界は、標高に沿って常緑広葉樹の樹高が低下することで形成されることがこれまでに示唆されてきた。しかし、森林構造の調査には多大な労力を要し、調査範囲は限定であった。最近ではUAVを用いた近接リモートセンシングの発展により、森林構造を広範囲に把握し、地形との関連性を検討できるようになってきた。 |
【 目的 】 |
本研究では、UAV(小型無人航空機)搭載のレーザースキャナにより高精細な三次元点群データを取得し、植生帯境界における森林構造の空間変化を高精度かつ広範囲で把握することを目的とする。特に、標高に沿った林冠構成種の樹高分布を明らかにし、森林構造の空間変化と地形との関連性を解明する。 |
【 方法 】 |
調査対象は、箱根・函南原生林の標高550mから850mに位置する常緑−落葉広葉樹林の植生帯境界である。広範囲(1〜2km2)にわたり、UAVレーザースキャナを用いて地表面と森林の三次元点群データを取得する。地表面データの精度向上のため、着葉期だけでなく落葉期にもレーザー測量を実施する。 取得した点群データから数値表層モデル(DSM)、数値地表モデル(DTM)、林冠高モデル(CHM)を作成し、森林構造の空間変化を把握する。そして、高精度測位を活用して、現地植生データと比較して精度を検証するとともに、地理情報システムを用いた空間解析を行い、森林構造と地形との関連性を明らかにする。 |
【 期待される成果 】 |
階層構造が発達した自然林の森林構造を高精度かつ広範囲で把握することは、地球温暖化による植生変化をモニタリングする上で最大の課題であった。本研究は、まだ適用事例が少ないUAVレーザースキャナを用いてこの課題に取り組むものである。さらに、社会的な要請に対応した広域的な森林モニタリングシステムの確立に向けて、本研究の成果はUAVを活用した近接リモートセンシングの可能性を検証することができるものと考える。 |