
植物研究助成 34-05
伊豆諸島のサルトリイバラの防衛形質の退化と葉の模様の関連性の検討
代表研究者 | 京都大学生態学研究センター 准教授 樋口 裕美子 |
【 背景 】 |
葉にみられる茶色や白色の模様(斑)は被子植物の70科以上にみられる形質だが、野生植物における生態的機能はよくわかっていない。光防御など光合成に与える効果のほか、植食者に対するカムフラージュや警告色など視覚的防衛として機能する可能性も提案されているが、仮説にとどまっている。伊豆諸島は本土とつながったことのない火山島であり、葉の大型化や刺の退行、花冠の小型化など特有の植物の特徴がみられる。これは島の気候条件や大型草食動物の不在、植食者相や送粉者相が本土と異なることなどに起因していると考えられる。 |
【 目的 】 |
つる植物のサルトリイバラ(サルトリイバラ科)にはふつう茎に刺があるが、三浦半島・伊豆諸島・小笠原諸島には刺のない/少ない個体が生育しており、変種や品種として扱われている(トキワサルトリイバラ)。前者には一部の葉に赤茶色の斑がまだらに入る個体が一定の割合でみられるが、後者についてはよくわかっていない。本研究では本州と伊豆諸島の両方に生育するサルトリイバラに着目し、防衛形質と思われる刺の退行とともに、化学的防衛や葉の斑の発生パターンに変化がもたらされているかを検討する。 |
【 方法 】 |
本州〜伊豆諸島に生育するサルトリイバラについて野外調査を行い、斑や刺の有無・量・発生パターン、食害率と植食者相、化学的防衛形質、土壌環境や光環境などの生育環境を測定し、それぞれの関連を調べる。葉の切片作成により斑の発色機構を検討するとともに、斑と斑でない部分の反射スペクトルを測定し、植食者の色覚モデルを用いてどのように見えるのかを推定する。各集団のDNAを抽出し一塩基多型を検出、集団の遺伝構造や分化過程を推定する。 |
【 期待される成果 】 |
植食者相の異なる地域集団を用いて葉の斑と被食防衛に関連があるのかを検討することで、野生植物の葉の斑の多様性や生態的機能の理解に貢献できる。伊豆諸島における植物の刺の退行は複数種において指摘されるが、本州〜伊豆諸島にかけて定量して報告した研究はそれほど多くはなく、伊豆諸島の植物の進化の理解にも役立ちうる。 |