植物研究助成

植物研究助成 34-06

伊豆・箱根地域における広葉樹4種の枯死木の菌類群集と材分解機能

代表研究者 東北大学大学院農学研究科
准教授 深澤 遊

背景

 枯死木は分解する過程で多様な生物の住み場所となっており、森林の生物多様性の維持に重要な役割を果たしている。また、枯死木は炭素の巨大な貯蔵庫であり、枯死木の分解によるCO2放出は森林の炭素貯留量を左右する。枯死木に生息する生物の中でも菌類は枯死木分解に主要な役割を果たしており、菌類による枯死木分解は大きく分けて2つの「腐朽型」に区分される。一つは「白色腐朽」と呼ばれ、材を構成するリグニンとホロセルロースが両方分解される。もう一つは「褐色腐朽」と呼ばれ、ホロセルロースのみが分解されリグニンが残存する。この腐朽型の違いは、腐朽材を利用する多種多様な生物の種組成や炭素貯留量に影響することがわかってきた。よって、枯死木の菌類群集や腐朽型を明らかにすることは、森林の生物多様性や炭素貯留機能を予測する上で重要である。ただし、枯死木内部の菌類群集と腐朽型を詳しく調べられた樹種は少ない。菌類群集や腐朽型は気候の影響を強く受けることが知られている。伊豆・箱根地域には、冷温帯と暖温帯の樹種が共に分布することから、枯死木の菌類群集や材の腐朽型を似た気象条件で樹種間比較できる利点がある。

目的

 本研究では、冷温帯の優占樹種であるブナおよびミズナラと暖温帯の優占樹種であるスダジイおよびタブノキの枯死木を対象として、菌類群集と腐朽型をDNAメタバーコーディングと化学分析により網羅的に解析して比較し、樹種ごとの特徴を明らかにすることを目的としている。

方法

 ブナ、ミズナラ、スダジイ、タブノキの倒木を対象とした野外サンプリングと、得られた倒木サンプルから抽出したDNAの菌類ITS領域のメタバーコーディングおよび材成分の化学分析により、菌類群集と腐朽型を評価する。

期待される成果

 枯死木内部の腐朽菌の多様性と材の腐朽型の多様性は、枯死木に生息する生物に多様な生息場所を提供することで、森林の生物多様性の維持に貢献する。本研究では、ブナ、ミズナラ、スダジイ、タブノキの枯死木の菌類群集と腐朽型を比較してその違いを明らかにする。これにより、4樹種の枯死木がそれぞれ森林の生物多様性や炭素貯留にどういった影響を与える可能性があるのかを予測し、4樹種が混在することの意義を考えることができるだろう。