
植物研究助成 34-11
レーザー分光法によるNOyフラックス計測装置の開発と森林観測への応用2
代表研究者 | 帝京科学大学生命環境学部 教授 和田 龍一 |
【 背景 】 |
化学肥料の生産や農作物の栽培、化石燃料の燃焼といった人間活動により、環境中に大量の窒素が蓄積されている。とくに森林では植物や微生物の吸収量を超える窒素酸化物が大気・降水から流入し、生態系で蓄えきれなくなった窒素が硝酸イオンとして渓流水に流出する。このような現象を窒素飽和と呼び、飲用水や湖沼・内湾の富栄養化など様々な環境問題を引き起こしている。しかし地球を循環している窒素の収支を知るうえで、森林生態系と大気のガス交換の情報は限られている(Wada et al., 2023)。窒素循環問題における森林が果たしている現状の役割を明確にし、窒素飽和等の環境問題の解決・抑止につなげていく必要がある。 |
【 目的 】 |
本申請研究では、渦相関法により、総反応性窒素酸化物(NOy)と呼ばれる窒素酸化物群のフラックスを高精度に測定可能なレーザー分光法の原理を用いた分析装置を開発する。開発した分析装置を用いて、森林生態系におけるNOyフラックスの日変化と季節変化を定量的に明らかにする。同時にオゾンフラックスと環境因子を合わせて解析し、森林生態系におけるNOyの沈着・放出の機構を理解し、大気環境・森林環境の保全に役立つ知見を得る。 |
【 方法 】 |
新たに開発するNOyフラックス計測装置は、600℃に加熱したサンプル口に大気を通すことでNOyを二酸化窒素(NO2)に熱分解し、熱分解したNO2をレーザー分光計測装置で計測することで行う。2024年度本植物研究助成にて、NOyをNO2に高速かつ安定して熱分解する前処理装置とNO2レーザー分光計測装置を組み合わせ1秒の時間分解能にてNOyを計測することに成功した。本申請ではさらに高時間分解能でNOyを測定可能なシステムを検討し、森林生態系にて渦相関法を用いたNOyフラックス計測を行う。 |
【 期待される成果 】 |
国内では例のない森林生態系におけるNOyフラックス計測手法を確立することで、今後様々な森林における窒素酸化物の放出・吸収沈着量のデータを蓄積することが可能となる。窒素酸化物の発生源と吸収源の理解、および国内での大気環境・森林環境の保全に役立つことが期待できる。 |