植物研究助成

植物研究助成 34-15

伊豆諸島固有シダ植物ハチジョウウラボシの種分化プロセスの解明

代表研究者 昭和大学富士山麓自然・生物研究所
講師 藤原 泰央

背景

 2倍体レベルでの種分化は一般的に地理的隔離によって集団の移動が制限されることが引き金となり起きることが知られているが、それぞれの生物群における種分化過程については未解明な部分が多い。シダ植物は胞子の長距離拡散が可能なことで多くの種が広域分布を示すにも関わらず、陸上植物の中で被子植物に次いで種多様性の高いグループであり、それゆえ広域分布を示すシダ植物の高い種多様性はある種のパラドックスである。しかしシダ植物における2倍体レベルでの種分化過程を明らかにした例は極めて少ない。本研究で対象とするハチジョウウラボシ(ウラボシ科ノキシノブ属)は伊豆諸島の雲霧林に固有の2倍体種であり、日本列島に広域分布する2倍体種ヒメノキシノブと遺伝的に極めて近縁である。このパターンはハチジョウウラボシがヒメノキシノブから周辺的に種分化する初期段階にある可能性を強く示唆し、シダ植物における2倍体レベルでの種分化過程を明らかにするのに有効なモデルとなりうると考えた。

目的

 1.ハチジョウウラボシの実体について、遺伝的にヒメノキシノブと比較し明らかにする。2.ハチジョウウラボシの種分化過程について、分岐年代の推定、遺伝的な隔離の有無および生態的な隔離の有無を明らかにする。

方法

 伊豆半島および周辺地域、伊豆諸島各島(大島・利島・神津島・三宅島・御蔵島・八丈島)においてヒメノキシノブとハチジョウウラボシを採取する。葉緑体遺伝子配列および核のゲノムワイドな遺伝情報を用いて、種間・種内の遺伝的分化・集団分岐年代・遺伝子流動の有無を推定することで、ハチジョウウラボシの種分化過程を明らかにする。標本データおよび現地調査による2種の位置情報と気候データに基づいて、種分布モデルを構築し、過去および現在の分布パターンを推定するともに、ニッチ分化の有無を検証する。

期待される効果

 本研究によりハチジョウウラボシの実体が明らかになり、その種分化過程が解明されれば、シダ植物の多様性創出機構の理解が大きく前進し、シダ植物の多様性保全に貢献する。さらに伊豆諸島固有植生の成立過程についての理解も得られることが期待され、伊豆諸島の植生保全の観点からも十分に意義深い。