
植物研究助成 34-18
海藻種の生活環・生育期間と環境変動への適応能の関連性に関する研究
代表研究者 | 東京海洋大学学術研究院海洋環境科学部門 教授 神谷 充伸 |
【 背景 】 |
昨今の環境変動によりヒジキやテングサなどの収穫量が激減している地域が多いが、同じ地域でも海藻種によって収穫量の減少幅が大きく異なっていたり、同じ種でも収穫量がほとんど変わらない地域がある。その理由として、種や地域によって遺伝的多様性や生理的多様性が異なり、それが環境変動に対する適応力の差と関係している可能性がある。 |
【 目的 】 |
黒潮大蛇行の影響が異なる3地点から、生活環や生育期間が異なる海藻種を季節毎に採集し、生物量と遺伝的多様度を比較調査することにより、海藻種の生活環・生育期間と環境変動への適応能の関連性を評価する。本研究により、①生育環境の変化が潮間帯海藻の生物量や遺伝的多様性に与える影響、 ②生活環や寿命の違いが遺伝的多様性に与える影響、③優占するハプロタイプが生育環境や季節によって変動する可能性を明らかにする。 |
【 方法 】 |
黒潮大蛇行の影響が異なる3地点(静岡県下田市、千葉県館山市、千葉県勝浦市)で春季、夏季、秋季にアオサ藻1種、褐藻7種、紅藻6種を30個体ずつ採集するとともに、5箇所以上に方形枠を設置して研究対象種の被度を記録する。ミトコンドリアのrps3遺伝子をマーカーとして、それぞれの種について遺伝的多様度を地点間・季節間で比較する。本研究では毎シーズンに1000個体以上を解析する予定で、従来の解析方法ではコストと時間がかかりすぎるため、DNAメタバーコーディング法を導入し、遺伝的多様性を網羅的に解析する。 |
【 期待される成果 】 |
環境変動によるストレスが継続する場合、出現頻度の低いハプロタイプは将来的に衰退・消失する可能性が高い。今後、藻場の保全や海藻の種苗生産を行う上で、できるだけ多様なハプロタイプを維持したり、その中から優良な品種を選別することが求められるため、各ハプロタイプの出現場所や出現時期を把握しておくことは肝要である。また、集団構造を正確かつ網羅的に把握するためには、集団毎に相当数の個体を解析する必要がある。本研究で導入する集団解析法は海藻での適用例はないが、この手法が確立すれば、数千個体を同時に解析することが可能となり、海藻の集団遺伝学的解析は飛躍的に前進すると期待される。 |