植物研究助成

植物研究助成 34-20

半自然草原を再現する緑化技術と生物多様性創出に関する研究

代表研究者 千葉大学大学院国際学術研究院
教授 永瀬 彩子

背景

 草原は身近で多様な動植物が生育する生物多様性の宝庫である。かつて日本の各地に広がっていた草原は、茅場や採草地、放牧地などとして機能してきたが、過疎化や産業構造の変化、里山の放棄などにより適切な管理が行われなくなったため、国土面積の約10 %から1%以下まで減少した(沼田, 2003)。半自然草原は離島や高山地域、水域と並び、絶滅危惧種が集中する地域である(国土交通省, 2024)。草原は極相林よりも生物多様性が高いと言われているが、森林ほどの重要性は認識されていない。半自然草原の保全や再生する取り組みは遅れており、危機的状況にある。

目的

 半自然草原を再現し、保全することにより、生物多様性創出に貢献することを目的とする。

方法

現地調査:半自然草原(伊豆半島大室山・千葉市の加曽利貝塚)を対象として、植生、土壌の理化学性や土壌真菌について調査を行う。緑化で使用可能な植物及び種子、表土ソッド(植物の茎葉・根茎・土壌を含むマット状の植生断片)を採取する。採取した土壌の理化学性と真菌の結果から再現地の適切な土壌改良を行う。
緑化技術:千葉大学内や新技術開発財団の植物園にて、(1)表土ソッド(2)混合種子(3)植物苗を使って植生を再現し、再現方法を検討するとともに、適応できる種、開花期間、生長などの調査を行う。
生物多様性創出:現地と植生再現地の両方にトラップや自動撮影カメラを設置して飛翔昆虫を調査し、生態系創出の比較を行う。

期待される成果

 本研究を国内外の様々な地域で応用し、生物多様性を考慮した地域特有の半自然草原の再現モデルを提供する。都市緑化、河川敷や公園などに活用して、人と地域の自然が触れ合う場所を提供し、生物多様性の復元を目指す。半自然草原のような大規模な緑地は生物多様性の生育空間の核となる地域であり、同様の植生を周囲に数多く再現することにより生態系ネットワークを形成できる。気候変動などにより半自然草原の植物が減少した場合には、再現地で保全した植物を現地に戻すことができる。植物苗を育て植える作業を住民と共に行うことにより、地域の特色ある自然や生物多様性への理解を促す環境教育効果が期待できる。