
植物研究助成 34-21
ワサビ栽培における香気的誘引植物を利用したコナガ類防除法の確立
代表研究者 | 静岡県立大学食品栄養科学部 助教 増井 昇 |
【 背景 】 |
日本の代表的な農作物の1つであるワサビ(Eutrema japonicum)は、伝統的な食文化や自然景観の一部としての役割を担っている。しかし、近年は温暖化による生育適地の減少や害虫の発生拡大など、ワサビの栽培に多くの障害が生じている。特に、害虫であるコナガ類に対する殺虫剤として、ワサビの栽培において認可されているBT剤は効果の安定性や労力の大きさに課題があり、従来の農薬を用いた防除方法のみに依存しない新たな防除手法の開発が求められている。 |
【 目的 】 |
本申請課題では、植物の放出する香気シグナル(BVOCs: Biogenic Volatile Organic Compounds)に基づく昆虫の宿主選好性に焦点を当てる。アブラナ科作物全般を食害するコナガ類のコナガ(Plutella xylostella)だけでなく、ワサビ栽培地で局所的に発生するヒロバコナガ(Leuroperna sera)も対象に、ワサビの育苗・栽培における誘引植物の探索と誘引性を示すBVOCs成分・組成の特定を行う。 |
【 方法 】 |
静岡県内を中心にワサビ栽培地におけるコナガ類発生数の調査(伊豆、熱海、御殿場及び静岡、山梨県忍野村)を行う。ワサビの他、コナガ類が食害するアブラナ科作物(例:コマツナ、キャベツ、セイヨウワサビ)に関して、BVOCs放出成分の測定及び選好性比較試験(産卵数、食害度調査)を実施し、誘引植物の選抜を試みる。有望な誘引植物に関しては、伊豆の現地ワサビ苗栽培ハウスにおいて供試し、無防除区及び農薬防除区との防除効果を比較する。また、候補の誘引植物を置くことによるワサビ苗への影響(純光合成速度、成長量、グルコシノレート類の葉内含有量など)を調査する。 |
【 期待される成果 】 |
コナガ類は世界的なアブラナ科作物に対する害虫であり、化学農薬に対する抵抗性の発達など多くの課題がある。したがって、本申請課題はワサビの害虫防除法の確立に貢献するとともに、多くのアブラナ科作物の栽培における総合的病害虫管理法の発展にも資する。さらに、ワサビと誘引植物間、植物と害虫間の様にBVOCsを介した多面的な生物間コミュニケーションの理解を促進する。 |