
植物研究助成 34-22
アポミクシス植物ヤブコウジの群落形成と分布拡大のダイナミクス
代表研究者 | 鶴岡工業高等専門学校 教授 南 淳 |
【 背景 】 |
一部の植物は無性的に胚や種子を形成し、これをアポミクシスという。アポミクシス種の分布域が、近縁の有性生殖種よりも広く、高緯度、高標高に及ぶ現象はGeological parthenogenesis(地理的単為生殖)と呼ばれ、その要因について議論されている。 |
【 目的 】 |
栄養繁殖を行うクローナル植物であり,条件的なアポミクシスも行う植物,ヤブコウジArdisia japonicaは近縁種にくらべ、顕著に高緯度、高標高に分布しており、巨大なクローンを形成している。ヤブコウジの群落形成における栄養繁殖と種子散布それぞれの寄与、種子散布による分布拡大のダイナミクスについて明らかにする。 |
【 方法 】 |
A. 野外観察・実験によるヤブコウジの繁殖生態・生理の解明 山形県鶴岡市の調査地および実験室内での調査により、ヤブコウジの花成と開花の季節生物学とアポミクシスの動態を明らかにする。さらに、掘り起こし実験とジェノタイピング実験により栄養繁殖の動態を明らかにする。 B. ヤブコウジの巨大クローン集団内のクローン系譜の探索 巨大クローン集団内の体細胞突然変異による塩基配列の多型からクローンの系譜を識別する。マイクロサテライト解析データとMIG-Seqデータを解析し、クローン系統内の遺伝子型の変異を見つけ出し,リアルタイムPCRを用いた方法により多個体の遺伝子型解析を行う方法を開発する。遺伝子型の群落内および地理的分布の分析に適用して群落形成における栄養繁殖・種子散布の寄与を推定する。 C. ヤブコウジの分布拡大の解析 主調査地から10km〜1000km程度離れた数ヶ所においてサンプリングを行う。マイクロサテライトマーカーや上記の開発したマーカーによる解析によりクローンの移動を追跡し、種子の移動のダイナミクスを明らかにする。 |
【 期待される成果 】 |
アポミクシスは、遺伝学的には無性生殖であるが、生態学的には有性生殖と同様の種子繁殖である。よって、アポミクシス植物の群落形成や分布拡大に関する研究により、種子繁殖の生態学的側面にのみ着目することができる。本研究の結果は植物の無性生殖の研究方法に進歩をもたらすだけでなく,地球温暖化が急速に進む現代における植物種や植物群落、植生の保全において重要なヒントを与える。 |