植物研究助成

植物研究助成 34-23

浜名湖におけるアマモ場再生のための、アマモの受精機構の研究

代表研究者 名古屋大学生物機能開発利用研究センター
特任准教授 笠原 竜四郎

背景

 浜名湖では2016年頃から「海のゆりかご」とも呼ばれ、海棲生物の住処となっているアマモが急速に減少し始め、800ha以上あったアマモ場がわずか1haまで激減してしまった。これにより、浜名湖全体の水産生態系にも影響を与え、浜名湖特産品だったアサリの不漁をはじめ、エビやカニを含む魚介類の漁獲量も減少を続けている。アサリ漁獲量は過去最低を記録し、漁業者の経営に打撃を与えただけでなく、浜名湖観光の名物であった潮干狩りは、5年連続で中止である。様々な団体が立ち上がって環境保護に取り組んでいるが、アマモ場再生の目処すら立っていない。

目的

 本提案の目的は浜名湖に「アマモ場」を再生し、「海のゆりかご」を取り戻し浜名湖全体の水産生態系を回復させることにある。アマモ減少の理由の一つに遺伝的多様性の減少による種子発芽率の低下が考えられるため、1. アマモの受精機構の形態学的、分子生物学的な理解と、2. 浜名湖内のアマモを相互交配して遺伝的多様性を高めることで種子発芽率を向上させ、「アマモ場再生マニュアル」を作成する。

方法

 1) アマモ受精機構の形態学的研究
まず受精に失敗している胚珠は花粉管誘引に失敗しているのかを調べ、次に発芽しない種子が胚や胚乳を形成しているのかどうかを解析する。
 2) アマモの受精機構の分子生物学的解析
これまでに知られている受精因子がアマモで正常に発現しているかどうかを調べるためにゲノム解析、トランスクリプトーム解析を行う。
 3) 発芽率の高いアマモ種子の育種と、新規アマモ場の造成準備
浜名湖内のアマモを相互交配して種子発芽率を向上させ、発芽力の高い種を育種する。その後種子を収穫し、発芽実験を行う。アマモ種子の育種と同時に、発芽促進剤を散布し、発芽率がどのくらい上昇するかを試験する。

期待される成果

 アマモの形態学的あるいは分子生物学的研究が進めば、そのアマモ場再生技術により、浜名湖だけではなく日本沿岸、そして世界中でアマモ場の再生への応用が期待できることから、その社会的な意義と波及効果は絶大なものになる。