植物研究助成

植物研究助成 34-24

半自然草地の放棄が生態系エネルギーフラックスに及ぼす影響

代表研究者 東京農業大学地域環境科学部
准教授 今井 伸夫

背景

 生物多様性の評価では、植物や特定の昆虫・動物・猛禽類などの多様性や個体数が調べられることが多い。その評価では、例えば、攪乱から回復するにつれて原生林依存種が増加し撹乱地依存種が減少した、などと報告される。しかし、こうした個別の種や分類群に注目した生物多様性の指標は、生態系の活性や機能性を示す指標のひとつに過ぎず、種の集合的な機能を考慮することができない。
 「エネルギー論的アプローチ」は、エネルギーという共通単位を用い、生産者-消費者間や異なるギルド間の関係を、統一的かつ物理的に意味のある方法で比較することができる。主要な分類群を流れるエネルギーと、その流れに寄与する種の数や優占度に注目することで、生物多様性と生態系機能を統一的に理解できる。しかし、先行研究がほとんどないため、未だ植物から昆虫、さらに動物へとどのようにエネルギーが流れるのか、また攪乱傾度に沿ってそれはどう変化するのかといった基礎的知見さえない。

目的

 生物多様性の指標としてよく使われる4つの分類群(植物、昆虫、哺乳類、鳥類)のエネルギーフラックスを、熊本・阿蘇の半自然草地、放棄草地、二次林、人工林において評価する。そして、1)純一次生産に対する昆虫・哺乳類・鳥類が消費するエネルギーの割合、2)それが攪乱傾度に沿ってどのように、なぜ変化するのかを明らかにする。

方法

 上記4植生タイプの純一次生産を、草地は植生調査と坪刈り、樹木はリタートラップ(葉生産)、イングロースコア法(根生産)、毎木リセンサス(幹生産)により求める。昆虫は既に調査が終了している。中大型哺乳類をカメラトラップ、鳥類をポイント・ルートセンサスにより調べる。純一次生産に係数を掛け、エネルギーフロー(J/m2/年)を算出する。昆虫・哺乳類・鳥類のエネルギー消費は、生息密度、消費エネルギー、食物摂取率から推定する。純一次生産に対する昆虫・哺乳類・鳥類の消費エネルギー比の4植生タイプ間の違いを調べる。

期待される成果

 攪乱からの回復過程において、多様な分類群の種多様性と機能的役割がどのように変化してゆくのかが、分類群横断的に明らかになる。これにより、これまでになかった陸域生態系の評価指標を新たに確立することができる。