植物研究助成

植物研究助成 35-09

花の香りのゆくえを追う-シュリーレン法による光学的可視化と応用展開-

代表研究者 慶應義塾大学理工学部
専任講師(有期) 森 信之介

背景

 植物の花は、匂いや色によって受粉を媒介する昆虫(送粉昆虫)を巧みに誘引する。典型的な植物の花の匂いは、20〜60種類の揮発性有機化合物(VOCs)で構成されるが、それぞれ比重や拡散係数の違いにより、空気中での滞留・拡散挙動も異なると考えられる。軽いVOC は遠方まで移動して長距離誘引因子となり、重いVOC は植物体近傍に滞留して短距離誘引に寄与する可能性がある。また、花の立体構造も VOCs 拡散挙動を修飾すると推察される。たとえば、開放型花冠では拡散しやすく、漏斗型や閉鎖型では内部に滞留しやすいなど、形態的特徴は香気空間を規定しうる。

目的

 本研究では、背景志向シュリーレン法(background-oriented Schlieren, BOS)を基盤とし、屋外でも機動的に利用できる生物起源VOCs の光学可視化手法を開発・確立することを目的とする。これにより、花香の時空間的な拡散動態を“見る”こと、そしてそれによって「匂い場」と「送粉昆虫の行動」との時空間的な対応関係を解明することを目指す。さらに個々のVOCs標品を用いた解析によって、VOCごとの物理特性と拡散挙動との関係性を明らかにするとともに、花の立体構造の整流・滞留効果を検証する。

方法

1. 野外計測用シュリーレンシステムの構築と最適化(技術開発)
2. GC-MS(ガスクロマトグラフ質量分析)による花香成分の化学的同定
3. GC-EAD(ガスクロマトグラフ昆虫触覚電位検出)による有効花香成分の特定
4. 屋外でのシュリーレン撮影と送粉昆虫の行動記録
5. 花の 3D 模型製作とVOCごとのBOS撮影
以上により、野外計測の技術を確立するとともに、その応用として、花香の時空間的な拡散動態を捉え、匂い場と送粉昆虫の行動との時空間的な関係を解明する。

期待される成果

 野外計測用シュリーレン法を生物起源VOC sの可視化に応用できれば、工学的にも生態学的にも新たなパラダイムを導入できる。たとえば、動物に応用すれば、 求愛、 集合、 忌避、 警報といったフェロモン放出をリアルタイムに捉えられる。また、農業分野の害虫トラップ最適化、環境科学分野のガス漏洩検知など多様な場面での応用が期待できる。