植物研究助成

植物研究助成 35-21

海洋島嶼におけるサンショウ属の被食防衛形質喪失過程の検証

代表研究者 東北大学学術資源研究公開センター
助教 伊東 拓朗

背景

 大陸と陸続きになったことのない海洋島では、多くの生物が独自の進化を遂げてきた。植物では、草食獣等による捕食者圧の低下に伴い、被食防衛形質の退化・喪失が世界各地の海洋島で報告されている。しかし、多くは形態記載にとどまり、その進化過程を遺伝情報に基づいて検討した研究は限定的である。本研究では、本州から台湾・中国にかけて広域分布するカラスザンショウと、海洋島である小笠原諸島に分布する固有変種アコウザンショウに着目する。前者は一般に枝に多数の鋭い棘を有するが、後者ではほぼ喪失している。さらに、前者は海洋島である伊豆諸島において明確な棘の短縮が報告されており、本土からの距離と対応した段階的な棘形質の退化が進行している可能性がある。

目的

 上記2分類群を対象として、棘形質の定量的評価、葉緑体全ゲノム配列に基づく系統・分岐年代および祖先分布地推定、ゲノム縮約解読法に基づく集団遺伝構造および集団動態の推定を行う。これにより、海洋島嶼における段階的な被食防衛形質(棘)の退化・喪失過程を明らかにすることを目的とする。併せて、各集団の遺伝的多様性および特性を評価し、特に小笠原集団、伊豆諸島集団について、進化的重要単位としての保全生物学的評価を行う。

方法

現地調査:伊豆諸島を中心として、分布域全体を網羅した試料採集を行う。
棘形質定量:成木の花茎基部の枝および幼木を対象に、棘密度、棘長、棘サイズ等を定量的に測定し、集団間の形質変異を明らかにする。
系統推定:各種複数集団について葉緑体全ゲノム配列を決定し、既存のサンショウ属系統樹へ統合し、系統的位置や分岐年代および祖先分布地推定を行う。
集団遺伝解析:ゲノムワイド一塩基多型(SNP)情報を基に、集団遺伝構造、遺伝的多様性の評価および過去の有効集団サイズ変動を推定する。

期待される成果

 伊豆諸島-小笠原諸島に生育する植物種の被食防衛形質の退化過程を実証的に示す数少ない事例となり、海洋島における形質進化の一般化と種分化過程の理解に大きく寄与することが期待される。また、島嶼個体群の進化的独自性の評価や保全単位設定に資する科学的基盤を提供し、生物多様性保全および島嶼生態系管理において高い応用的意義をもたらすことが期待される。