植物研究助成

植物研究助成 35-22

ワサビ栽培における香気的誘引植物を利用したコナガ類防除法の確立

代表研究者 静岡県立大学食品栄養科学部
助教 増井 昇

背景

 ワサビ(Eutrema japonicum)は、伝統的な食文化や自然景観を形成する日本の代表的な農作物である。しかし、近年は温暖化による生育適地の減少や害虫の発生拡大など、ワサビの栽培に多くの障害が生じている。特に、ワサビの栽培においてコナガ類の防除に認可されている主力のBT剤(生物農薬)は効果の安定性や労力の大きさに課題があり、既存の方法に加えて新たな防除手法の開発が必要である。

目的

 本研究では、コナガ類2種(コナガ:Plutella xylostella、ヒロバコナガ:Leuroperna sera)の宿主選好性に着目し、誘引植物および誘引香気シグナル(BVOCs)組成の検討、食害由来BVOCsの詳細解明を進める。加えて、生育地の周辺昆虫相や生育環境要因から、両種の局所的発生メカニズムを明らかにし、地域条件に応じた防除策の高度化に繋げる。

方法

[1]コナガ類発生調査および環境DNA分析:各地のワサビ栽培圃場において、定期的にコナガ類の発生を調査し、衝突板トラップを用いた環境DNA分析により周辺昆虫相を把握する。また、各コナガ種に対して薬剤感受性検定を行う。[2]環境データ解析:同圃場にデータロガーを設置し、気温・湿度等を高頻度で記録し環境DNAとともに発生要因を解析する。[3]食害由来BVOCsの測定:GC-MSによる放出組成の解析に加え、PTR-MSを用いたリアルタイム測定により食害前〜食害後の放出変化を追跡する。[4]選好植物の探索:有望候補について選好性試験を継続し、各コナガ種の発生に対して適した誘引防除法を検討する。

期待される成果

 ワサビ田で特異的に発生するヒロバコナガは、アブラナ科畑作の主要害虫であるコナガに比べて生態的知見が著しく不足している。本研究によりヒロバコナガの生態解明と基礎情報の体系化が進むことが期待される。また、コナガ種間でその生態や植物の選好性が異なる可能性が示唆された。周辺昆虫相・環境要因の統合解析から各種の局所的発生メカニズムを解明し、地域条件に応じた効率的な防除戦略の提案が可能となる。さらに、ワサビ特有の食害由来BVOCs放出の時間変化を高い時間分解能で明らかにすることで、非視覚的な発生予察や植物-昆虫間コミュニケーション研究の発展に資する。