地球環境研究助成

地球環境研究助成04-03

欧州グリーンディール具体化のための新産業戦略と日EUグリーンアライアンス

代表研究者
立教大学経済学部・教授
蓮見 雄

研究目的

 欧州グリーンディールは、COVID-19危機、ウクライナ戦争という想定外の危機に直面したにもかかわらず進化し、2023〜2024年には法的基礎がほぼ整った。本研究は、カーボンニュートラルを目指す世界で最も体系的なEU成長戦略の5年間の軌跡を社会実装という視点から批判的に検討し、日本の政策への示唆を得ることである。

研究方法

 特に欧州新産業戦略とサステナブル・ファイナンスに焦点を当て、同時にEUの政策に対する欧州産業の対応を考慮して、欧州グリーンディールの進化とカーボンニュートラルへの移行経路(transition pathways)の共創過程の分析を行った。

研究成果

 第1に、欧州グリーンディールが再生可能エネルギーやグリーン水素を基礎とした産業への構造転換、マネーをESG投資へと誘導するサステナブル・ファイナンスを実現しようとする世界で最も体系的な政策であり、本研究はその全体像と基本構造を明らかにした。
 第2に、本研究は、エネルギー・環境、産業、金融・財政、市民社会という多角的な視点からEUの成長戦略=欧州グリーンディールを批判的に検討し、次の点を明らかにした。①カーボンニュートラル実現のための制度の基礎となる法整備はほぼ整ったものの、②その技術的・経済的な実効性は十分には担保されておらず、③グリーンディール産業計画の実効性には疑義がありEU経済の復興の展望は明確にはなっていない。
 第3に、本研究は、上記の分析結果を踏まえて上記①②③を明確に区別しつつ、産業の特性やグローバルサプライチェーンの現実を踏まえたカーボンニュートラルへの移行経路の共創が最重要課題であることを指摘した。
 第4に、本研究は、仮に欧州グリーンディールが失速したとしても、その制度の雛形は国際公共財として残り企業や投資家の行動を方向付ける可能性がある(ブリュッセル効果)と同時に、それがビジネスに持続可能性(sustainability)を埋め込んだ公正な競争空間(level playing field)を目指す限りにおいて域外企業にも新たなビジネス機会を開く可能性があること(オリンピック効果)を示唆した。
 第5に、本研究は、経済安全保障を確保しながらカーボンニュートラルの実現を目指すには、「地経学の自己実現のジレンマ」に留意しつつEBPM(証拠に基づく政策)を堅持することによって、EUの政策に対する内外のステイクホルダーの信頼を確保し、デリスキングしつつ中国との協力を進める必要があることを指摘した。

まとめ

 欧州グリーンディールは、5年を経てその実効性が問われている。そこには多くの成果とともに多くの課題が残されている。特に経済安全保障とカーボンニュートラルの実現を両立しうるかどうかが最大の課題である。

地球環境保全・温暖化防止への貢献

 欧州グリーンディールは、カーボンニュートラルへの移行経路の共創とその具体化を考える上で豊富な素材を提供してくれるツールボックスである。EU域外の国や企業にとっても、それを批判的に検討することは、それぞれの条件に応じたカーボンニュートラルへの移行の具体策を考える上で役立つばかりでなく、その移行経路が生み出す新たなビジネス機会の開拓にも貢献する。

主な成果発表

(1) 蓮見雄・高屋定美編著『欧州グリーンディールとEU経済の復興』文眞堂、2023年、336ページ。
(2) 蓮見雄・高屋定美編著『カーボンニュートラルの夢と現実:欧州グリーンディールの成果と課題』文眞堂、2025年、368ページ
(3) 蓮見雄「「グリーンディールと新たなEUの始動」(『現代ヨーロッパの国際政治−冷戦後の軌跡と新たな挑戦』法律文化社、2023年、168-184ページ)
(4) Yu Hasumi, The Trap of Escaping Dependence on Russia: Europe and Russia's Dependence on China, Research Reports, The Japan Institute of International Affairs,2022,1-7.