地球環境研究助成06-01
高エントロピーナノ粒子を構成要素としたサステイナブル熱電材料の創製
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【 研究の背景・目的 】 |
熱電変換素子は温度差を直接電流に変換できるため、熱電発電はSDGsに叶う有望な技術である。熱電材料の性能は無次元性能指数ZTで表される。実用にはZT ≥ 1であることが要求されるが、大部分の廃熱の温度領域である400℃以下の低温領域においてZT ≥ 1である既存の高性能熱電材料は、鉛やテルルなどの有毒あるいは希少な元素を多く含んでいる。本研究では、ZT値が比較的高いサステイナブルな元素からなる材料に対し、原子スケールからメソスケールにわたる階層的な欠陥構造制御を施すことでZTの大幅な向上を図る。 |
【 研究内容・課題 】 |
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高エントロピー(HE)材料とは、5種類以上の元素を含む材料と定義され、その有望な電気的、熱的、触媒的特性から、最近大きな注目を集めている。本研究では、HEナノ粒子を化学合成し、それらをビルディングブロックとしてマルチスケール欠陥を有する高性能(高ZT値)熱電材料を創製する。具体的には、Cu4Zn2SnGeMgS5Se4のHEナノ粒子(Fig. 1)を化学合成し、このナノ粒子を焼結することで高性能かつサステイナブルな熱電材料を創出する。 本研究における一番の課題は、Cu4Zn2SnGeMgS5Se4ナノ粒子の湿式化学合成法の確立である。これほど多くの元素からなるカルコゲナイド化合物のナノ粒子の化学合成例は無く、極めて挑戦的である。
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【 課題解決の研究手法 】 |
1-ドデカンチオールを配位子、還元剤、および硫黄源として用い、溶媒兼補助配位子および還元剤としてオレイルアミンを併用し、我々が以前開発したCu-Zn-Sn-S系ナノ粒子の合成法(Appl. Phys. Lett., 2017, 111, 263105)をベースとし、種々の方法でGe、MgおよびSeを添加する。続いて、合成条件を調整することにより、HEナノ粒子のサイズと形状を制御する。エントロピー効果を調べるために、特定の元素(Cu、Zn、Sn、Ge、Mg、Se)を含まないナノ粒子も調製し、比較対象とする。次に、ホットプレス法やパルス通電加圧焼結法を用いてHEナノ粒子をペレット化し、その熱電性能(電子輸送特性および熱輸送特性)を評価する。 |
【 期待される研究成果 】 |
本研究が成功すれば、サステイナブルな元素のみからなる高性能熱電材料が実現され、エネルギーハーベスティング用熱電変換素子の民生化が現実的となる。 本研究成果は、低炭素社会の実現と我が国の元素戦略に直接貢献するものであり、SDGsの第7目標(エネルギーをみんなにそしてクリーンに)、第9目標(産業と技術革新の基盤をつくろう)、第13目標(気候変動に具体的な対策を)の達成に対して大きく寄与するものである。 |