地球環境研究助成

地球環境研究助成02-01

超低過電圧酸素発生アノードを基盤とした高効率太陽光水素生成システムの開発

代表研究者
新潟大学工学部・教授
八木 政行

研究目的

 今日の社会システムは、化石燃料を中心としたエネルギー供給を基盤としているため、必然的に二酸化炭素(CO2)の排出を伴う。持続可能な未来社会を実現するためには、再生可能エネルギーを利用したCO2フリー高効率水素製造技術を基盤としたエネルギー供給システムの構築が重要である。本研究では、太陽電池と水電解セルを組み合わせた太陽光水素生成システムを構築して、世界最高の太陽光水素生成変換効率(STH)を達成し、持続可能な社会の実現への足掛かりを得る。

研究方法

 本研究では、当研究グループがこれまでに報告した、高活性なFeNiWOx触媒アノード(特願2019-95465, ACS Appl. Energy Mater., 2021, 4, 1410.)およびニッケル硫化物/炭素材料複合触媒アノード(特願2019-90888, Energy Environ. Sci., 2021, 14, 5358.)を基盤として、世界最高効率の酸素発生アノードおよび水素発生カソードを開発し、それらを用いて水電解セルを作成する。これに太陽電池を接続した太陽光水素生成システムを構築する。

研究成果

 多種の金属イオンを含むメタノール溶液にイミダゾール誘導体を添加した溶液(または懸濁液)を電極基板上に塗布して、適当な温度で焼成処理することにより、高い元素分散性を示す多元混合金属酸化物膜を合成する手法(MiMIC法)を確立した。MiMIC法を用いて作成した酸素発生アノードおよび水素発生カソードは極めて優れた触媒性能を示すことを明らかにした。MiMIC法を用いて合成したFeNiWOxアノード触媒と白金カソード触媒を搭載した水電解セルは、240mVの小さい過電圧で水分解反応を促進することを明らかにした。この水電解セルの最大出力に適したGaAs二接合型太陽電池を作製し、組み合わせることで、疑似太陽光(1sun)照射下、13.9%という極めて高いSTHを達成した。

まとめ

 世界最高水準のSTHを示す太陽光水素生成システムの開発に成功した。今後は、触媒電極の安定化と大面積化を図り、大電流条件下における性能評価に取り組み、実用に足る高性能太陽光水素生成装置を構築し、本装置の社会実装への道筋をつける。

地球環境保全・温暖化防止への貢献

 本研究で作製した太陽光を利用したCO2フリー高効率水素生成システムは脱炭素社会の実現の足掛かりになると期待される。

主な成果発表

1. Z. N. Zahran, E. A. Mohamed, T. Katsuki, Y. Tsubonouchi, M. Yagi, Nickel Sulfate as an Influential Precursor of Amorphous High-Valent Ni(III) Oxides for Efficient Water Oxidation in Preparation via a Mixed Metal-Imidazole Casting Method, ACS Appl. Energy Mater., 5(2), 1894-1904, 2022.
2. Z. N. Zahran, E. A. Mohamed, Y. Tsubonouchi, M. Ishizaki, T. Togashi, M. Kurihara, K. Saito, T. Yui, M. Yagi, Electrocatalytic water splitting with unprecedentedly low overpotentials by nickel sulfide nanowires stuffed into carbon nitride scabbards, Energy Environ. Sci., 14(10), 5358-5365, 2021.