地球環境研究助成

地球環境研究助成02-03

気候変動が北極圏生態系に及ぼす影響を評価するための海生哺乳類の生態調査

代表研究者
神戸大学・助教
岩田 高志

研究目的

 気候変動に伴う北極圏を含む高緯度地域の気温や水温の上昇、海氷の減少がここ数十年で急激に生じたことが報告されている。環境変動が海洋生態系に与える影響を的確に把握するために、海洋高次捕食者の行動を生態系変動の指標として用いる試みがされている。なぜなら、様々な栄養段階で現れる生態系中の変動が食物連鎖の上位に位置する動物の生態の変化に統合的に反映されるからである。本研究では、海生哺乳動物であるクジラを環境変動の指標とすることを目的とし、クジラの生態を調べることで環境変動がクジラの行動生態に与える影響を評価した。

研究方法

 動物に記録計を装着し動物の行動を計測するバイオロギング手法を用いて、アイスランド・スキャルファンディ湾のクジラの行動生態を調査した。野外調査と過去のデータ収集によりシロナガスクジラ6個体とザトウクジラ17個体の行動データを集約した。それらの行動データは2012、2013、2014、2017、2018、2021、2022年の複数年にわたる夏季(6-7月)のものである。クジラの行動データから、採餌イベントを抽出し、潜水中における1分間あたりの採餌イベント数を採餌効率の指標とした。調査海域の水温データは深度0.5mから97mまでの24層をCopernicus Marine Serviceから取得した。各深度帯の水温とクジラの採餌効率の関係を調べた。

研究成果

 シロナガスクジラ(81時間)とザトウクジラ(265時間)の行動データから、それぞれ1298回と5860回が採餌イベントを伴う潜水を抽出した。年別の潜水中における1分間あたりの採餌イベント数(採餌効率)を種ごとに求めたところ、シロナガスクジラでは0.5-0.7回、ザトウクジラでは0.4-2.7回となった。採餌効率と調査海域の各層の水温の関係は、シロナガスクジラで深度6.5mの水温、ザトウクジラで深度53.9mの水温との決定係数が一番高くなった。どちらも水温が低い時に採餌効率が高く、水温が高い時に採餌効率が低くなる傾向を示した。

まとめ

 本研究結果から、高緯度海域を利用するクジラの採餌行動は水温の影響を受け、水温が高い時ほど採餌効率が下がることが明らかとなった。このことから、高緯度海域は温暖化により水温が上昇し続けるとクジラにとって採餌に適していない環境となることが考えられ、結果として夏季に栄養を蓄えなければならないクジラの生態に負の影響を及ぼすことが示唆された。

地球環境保全・温暖化防止への貢献

 ヒゲクジラ類のような大型の海洋動物の研究は人々の関心を惹きつける強みがある。「温暖化が海洋動物に与える影響」という社会的な関心を集めることを意識しながら研究に取り組むことで、一般の人の温暖化問題に関する再認識を促し、一人でも多くの人が温暖化対策に意識をもつような効果をもたらす。

主な成果発表

(1) Iwata et al. 2021. Using an omnidirectional video logger to observe the underwater life of marine animals: humpback whale resting behaviour. Behavioural Processes: 104369.