地球環境研究助成

地球環境研究助成03-03

再生可能エネルギーを活用した腐食しない卑金属電極によるPEM型水電解に関する研究

代表研究者
筑波大学 数理物質系・准教授
伊藤 良一

研究の背景・目的

 現在90%の水素は水蒸気変成法を用いて製造されていることが問題視されている。再生可能エネルギーと組み合わせた水電解法の一つである固体高分子形(PEM型)水電解は排気ガスを排出せず、アルカリ廃液フリー、高純度な水素やエネルギー効率の観点から環境に優しい次世代水素製造法として期待されている。本研究は卑金属が本来持つ触媒能力を最大限発揮できかつPEM型水電解に適用可能な腐食しない卑金属電極の開発を行う。非貴金属化によりPEM型水電解装置の低価格化を狙い、オンサイト方式の水素製造法を社会に普及させ、水素製造基盤技術への貢献を目指す。

研究内容・課題

 本研究は高い化学的安定かつ触媒能力が優れた「高エントロピー合金」という新しい卑金属合金を用いて卑金属が本来持つ触媒能力を腐食させずに最大限発揮できる貴金属代替電極作製を行い、PEM型電解性能評価を通じてその触媒性能や電極劣化メカニズムなどを詳細に調査する。以下の4つが研究課題である。
・高エントロピー合金の元素の組み合わせの探索、粉砕方法探索、電極作製法探索
・高エントロピー合金カソードをPEM型水電解セルに組み込んだときの性能改善
・高エントロピー合金アノードをPEM型水電解セルに組み込んだときの性能改善
・高エントロピー合金をアノードとカソードに用いたときの耐久性試験と各種分析

課題解決の研究手法

 卑金属は単体だとPEM型水電解の強い腐食条件下で腐食してしまうことが確かめられている。5つ以上の卑金属を合金化することで、機械特性、化学活性および化学耐性の向上を目指す研究が行われている。近年では、Cr20Mn20Fe20Co20Ni20の5元合金は化学的安定性が増し触媒能力も向上したと報告されている。申請者は高エントロピー合金の金属種の組み合わせ、粉砕方法、膜電極接合体の作製方法を系統的に模索することで、従来の卑金属触媒を凌駕する触媒性能や耐久性改善を目指す。

期待される研究成果

 水素製造装置の取り扱いが安易で価格も抑えられれば一般家庭にも普及が進み、例えばソーラーパネルを設置した一般家庭で水素製造が可能となる。このような技術が大衆化すれば水素社会構築に向けた日本発の科学イノベーションとして、自然から得られる電気エネルギー(太陽電池)を各世帯で水素に変換する(水電解)ことで「エネルギーの貯蓄」を行い、自宅にある燃料電池車などに必要に応じて「エネルギー供給」することで、水素を中心とした自然エネルギーを実生活で利活用できるような新しい環境調和型循環型スマート水素社会の概念を社会に示せると確信している。この自活できる水素エネルギーは使い捨て可能な本耐腐食性卑金属を用いた家庭用PEM型水電解装置が鍵であり、家庭用太陽電池と家庭用燃料電池車を繋ぐキー水素テクノロジーかつ脱化石燃料による地球温暖化対策になると確信する。