復興支援特定研究-03
研 究 題 目 |
磁石を用いた土壌中放射性セシウムの除去法の開発 |
所属機関・役職 |
北海道大学大学院地球環境科学研究院 教授 |
代 表 研 究 者 |
田中 俊逸 |
【研究目的】 |
東日本大震災に伴う福島第一原発事故による放射性物質の拡散は、河川、海洋および土壌といった広範な環境汚染を引き起こした。環境中に放出された主要な放射性物質であるセシウム(134Cs、137Cs)は、比較的半減期が長く放射線による影響は長期に及ぶことが予想される。さらに、セシウムは土壌に強固に保持される特性を有することから、汚染土壌の処理は困難であり未だ有効な除染法は定まっていない。我々はこれまでに、プルシアンブルー(PB)を磁性粒子上に修飾し磁気分離により回収可能なセシウム吸着剤(PB-mag)の研究を行ってきた。本研究では、このPB-magを用いた簡便かつ低コストの放射性セシウム除去法の開発を試みた。 |
【研究方法】 |
土壌中放射性セシウム除去法の検討として、(1)土壌に保持されている放射性セシウムの最適な溶出法を検討し、(2)吸着剤による放射性セシウムの吸着効果を評価する。さらに、(3)スケールアップした場合の処理効果を評価する。(1)において、各種有機酸によるセシウムの溶出効果、後の吸着操作との相性を考慮し、最適な溶出法を検討した。(2)において、溶出液中でのPB-mag の安定性とセシウム吸着能を評価した。(3)において、スケールアップ時のセシウム溶出効果を評価した。 |
【研究成果】 |
[ラボスケール試験] セシウム溶出剤としてクエン酸、EDTA、酒石酸、コハク酸、アスコルビン酸、シュウ酸を用い、濃度およびpH条件を振って溶出効果を評価した。溶出試験には性状の異なる2種類の土壌を用いた。その結果、どちらの土壌においても有効な有機酸はシュウ酸であることがわかった。また、シュウ酸処理で一度溶出したセシウムが土壌粒子表面に再吸着することも明らかにした。さらに、再吸着の抑制に酢酸アンモニウムの添加が有効であることを見出し、セシウム溶出率を向上させることができた。酢酸アンモニウムの添加は、シュウ酸に溶解してしまうPB-magとシュウ酸処理の併用を可能とする効果があることも見出した。溶出液からのセシウム吸着試験を行ったところ、PB-magは溶解することなくほぼ100%のセシウムを吸着除去することができた。 [スケールアップ試験] スケールアップ試験は、土壌中セシウムの溶出操作を行う「溶出工程」、溶出液中のセシウムをPB-magにより吸着除去する「吸着工程」、吸着後のPB-magを磁気分離により回収する「磁気分離工程」から成る処理システムにより行った。処理操作は2サイクル行い、処理前後の土壌の放射能測定からセシウム除去効果を評価した。その結果、1サイクル目および2サイクル目の除去効果はそれぞれ約40%、約12%であり、トータルの除去率は約52%であった。 |
【まとめ】 |
以上の結果から、本手法は土壌中放射性セシウムの除去法としての有望性を示すことができたと考えている。また、本手法に粘土質の分級処理を加えることでより高い除去効果が得られると考えられる。 |