復興支援特定研究-02
研 究 題 目 |
母子のこころの健康増進―産後うつ病発症脆弱性とレジリエンスの解明― |
所属機関・役職 |
名古屋大学大学院医学系研究科 精神医学分野・教授 |
代 表 研 究 者 |
尾崎 紀夫 |
【研究目的】 |
東日本大震災前後に宮城県沿岸部で出産した母親の21.5%に産後うつ病の疑いがあることが東北大学による予備調査で確認された。申請者らは、非災害時では産後女性の約10%にうつ病の疑いがあることを明らかにしたが(J Psychosom Res, 2011)、それを大きく上回る割合となっている。 近年、産後うつ病は母親から子への愛着(ボンディング)に障害を引き起こし、子どもの養育環境や成長発達に影響を及ぼすことが指摘されている。しかし、大災害による母子の精神的健康への長期的影響は未だ不明であり、今後、適切な支援を提供するための実態把握が必要不可欠である。 そこで、東北大学による被災地調査の比較対象として、直接には被災していない東海地方において東日本大震災前後の時期に着目し、母親の精神的健康に関する調査を行った。 |
【研究方法】 |
2004年8月〜2013年12月、名古屋市内の計3病院において、産後1ヶ月の女性計915名を対象に、エジンバラ産後抑うつ自己評価票(Edinburgh Postpartum Depression Scale:EPDS)とボンディング調査票(Mother-Infant Bonding Scale:MIB)を施行した。そして、欠損値を除き、(1)東北大学による予備調査と条件を合わせ、2011年2〜10月に出産した女性を対象に、EPDSから産後うつ病と疑われる女性の割合を算出した。(2)また、1)震災前に妊娠・出産した群 2)震災前に妊娠し震災後に出産した群 3)震災後に妊娠・出産した群で得点を検討した。 |
【研究成果】 |
2011年2〜10月、宮城県沿岸部において683名の母親を対象にした調査では21.5%がEPDSのカットオフ値9点以上であったのに対して、名古屋市内の計3病院の調査では、合計26名中7名26.9%の母親がカットオフ値以上の得点を示した。また、EPDS平均値は1)震災前に妊娠・出産した群612名:4.50点±4.3点 2)妊娠中に震災が発生した群35名:7.5±6.7点 3)震災後に妊娠・出産した群160名:5.4点±5.1点となった。MIB平均値は、1)震災前に妊娠・出産した群:1.8点±2.2点 2)妊娠中に震災が発生した群:1.68±2.6点 3)震災後に妊娠・出産した群:2.0点±2.5点となった。また、各群の差の比較をKruskal-Wallis検定により行ったところ、EPDS得点に関しては、各群で有意差あり(p=0.012)となった。MIBに関しては差を認めなかった(p=0.535)。 |
【まとめ】 |
名古屋市内においても震災に伴って産後うつ病の割合が上昇していた。一方、子どもへの愛着は産後うつ病により低下するとされるが、本結果では変化が無かった。大災害に伴い、直接は被災していない地域においても産後うつ病発症のリスクが高まるが、相対的に愛着が強まる可能性が示された。 |