復興支援特定研究-04
研 究 題 目 |
カスケード型ICP-MS法による福島沖海底土の放射性ストロンチウム分析 |
所属機関・役職 |
福島大学共生システム理工学類 准教授 |
代 表 研 究 者 |
高貝 慶隆 |
【研究目的】 |
本研究の目的は、申請者らが開発した放射性ストロンチウム(90Sr)の迅速分析手法を用いて、汚染状況が把握できていない福島県沖海底土中の90Srの汚染調査を行うことである。90Sr等のβ線核種は、放射性セシウム等のγ線核種と比較して簡易モニタリングが技術的に難しかった。従来の分析法は、分析時間が2週間かかるために十分な調査には至らず、汚染の全体像が未だ不明瞭のままである。迅速で精度の高い分析方法で、かつ、実験者の安全を確保できる分析手法が望まれている。本研究は、自動化により分析者の放射線防護を徹底しつつ、簡便な操作で誤差の少ないデータを取得できる分析システムを提供することを目的とした。今回、本手法の実用性とともに、海底土の汚染状況を明らかにし、今後の海洋除染計画の礎とするためのデータを取得する。 |
【研究方法】 |
本研究では、汎用分析機器の一つである高周波誘導結合プラズマ-質量分析装置(ICP-MS)を用いた新しい90Sr分析法を構築した。具体的には、汎用のICP-MS装置とフローインジェクションまたはクロマトグラフィー装置を接続し、一連の流路内でカラムによる粗分離とリアクションセル(ICP-MS装置内)内での精密分離の2段階で同重体を完全分離させた。福島県沖でサンプリングされた海底土を本分析装置で分析した。 |
【研究成果】 |
種々の検討の結果、オンライン濃縮-酸素リアクションの連続自動前処理システムにより90Srへの同重体干渉の影響を全く受けない90Sr特化型のICP-MS分析を実現した。測定時間は、試料のマイクロウェーブ加熱分解操作を含めると2時間、測定装置の稼働時間のみでは15分であり、検出下限値(3σ)は、固体濃度で3.9 Bq/kg (重量濃度換算:0.77 ppq)であった。また、本法は、安定同位体と放射性同位体のピーク強度比の計測(検量線の作製)を行った結果、非密封放射性物質としての管理が必要な放射性Sr標準溶液を使用することなく、安定同位体である88Srの標準溶液からマスバイアス補正によって定量できることが分かった。福島県沖の海底土を測定したところ、塩に含まれる安定同位体のSr濃度の影響があって検出下限値は10〜42.8 Bq/kgまでの濃度範囲であったが、その範囲において90Srは検出下限値以下であった。 |
【まとめ】 |
汎用分析機器の一つである高周波誘導結合プラズマ-質量分析装置(ICP-MS)を用いた新しい90Sr分析法を構築し、福島県沖でサンプリングされた海底土の測定を行った。今回サンプリングされた海底土からは90Srは検出されなかった(検出下限値以下)であった。 |