復興支援特定研究助成

復興支援特定研究-01

研 究 題 目
宮城県沿岸部における放射能の影響と出生児の健康モニタリング
所属機関・役職
東北大学大学院医学系研究科・教授
代 表 研 究 者
有馬 隆博

【研究目的】

東日本大震災後、宮城県沿岸部では、ヒトへの健康被害、とりわけ胎児、新生児へのダメージは被災地住民の大きな関心事である。放射能汚染も比較的低濃度ながら食品とりわけ海産物に関する安全性について不安視されている。放射能汚染に加え、長期にわたる栄養、運動、ストレス等の母体の生活環境の変化のため、低出生体重児の増加が予想された。本研究では、被災地(石巻、気仙沼医療圏)の低出生体重児における身体的発育、発達調査について、子どもの成長のマイルストーンに照らし、継続的な観察研究を行うことを目的とした。

【研究方法】

低出生児を対象に、身体的発育、神経行動的発育調査を行い、さらに放射能汚染との因果関係 について、ゲノム解析を追加し、考慮した解析を行った。具体的には、(1)対象者の登録と観察研究:基本属性(在胎週数、出生身長、体重とポンデラル指数など)、産科合併症調査、児の成長と発達:身長、体重、血圧の測定を経時的に実施、神経行動学的な発達検査。(2)被災状況調査(3)子宮内環境の評価: 胎盤組織を用いた放射能物質の測定、成長、分化に関与する遺伝子群のエピゲノム解析を実施した。

【研究成果】

(1)宮城県沿岸部(石巻、気仙沼)に居住する妊娠女性(n=1727)を登録。低出生体重児群(2500g未満)(n=201)、正常体重児群(n=1526)(2)妊娠前BMIおよび妊娠期間中の母親の体重増は、出生体重と正に相関し、児の性別では男児で出生体重が増加(3)母親の喫煙は出生体重と負に関連し、受動喫煙も出生体重に対して負に関連。(4)放射能測定では、胎盤内に検出されず、胎児への安全性については自覚できる健康データと評価された。(5)胎盤組織(臍帯付着部)を用い、ゲノムインプリンティング(遺伝子刷り込み)遺伝子とその発現の制御を行うDNAメチル化について解析した。その結果、胎児、胎盤の発育促進に働く遺伝子において、メチル化の修飾と遺伝子発現について負の相関がみられた(IGF2, P<0.05)。(6)新生児行動評価(生後3日目)では、喫煙習慣(自律系の安定性)、アプガースコア(自律系の安定性)、出生体重(原始反射)、出産順位(原始反射)との関連性に加え、罹災状況と原始反射スコアの間に統計学的な関連性が観察された。新版K式発達検査(生後6ヶ月)では、出産順位および喫煙習慣との間に負の相関が見られたものの、罹災状況との間に関連性は認められなかった。

【まとめ】

東日本大震災の罹災地の妊娠女性を対象に、出生コホート調査を実施し、出生体重と関連する要因を明らかにするとともに、放射能、罹災状況との関連性を検討した。出生体重については、介入可能な要因として、妊娠前BMI、妊娠期間中の体重増、母親の喫煙習慣、母親の受動喫煙、母親学歴および母親就労が抽出された。今後の公衆衛生学的または周産期医療の活動が期待された。一方、罹災状況と出生体重または神経行動学的な指標との間に関連性は認められなかった。