復興支援特定研究助成

復興支援特定研究-02

研 究 題 目
被災牛における放射線被ばく特異的なバイオマーカーの同定と継世代影響評価系の確立
所属機関・役職
新潟大学 農学部 助教
代 表 研 究 者
山城 秀昭

【研究目的】

福島第一原発事故による放射性物質に被ばくした牛において、ただ安楽死処分するのでなく、その命を福島畜産の復興、食の安全性評価や人類の知見のために活用し、被災した牛の次世代にも渡りその影響を解析することは重要なひとつの課題である。
本研究では、旧警戒区域内で被災した雄牛とそれら次世代の産子において、全ゲノムエクソンのどの領域に変異が入るのか?特定の塩基に変異が入るのか、あるいはランダムに入るのか?生殖細胞の変異が、次の世代へと受け継がれるのか?などについて解析することを目的とした。

【研究方法】

6ヶ月間被ばくした被災牛1、血統情報から得られた父牛、2頭の仔牛の3世代(グループ1)、血統情報から得られた被災牛1の父方半兄弟牛・父牛・仔牛および母牛(グループ2)、2年間内外部被ばくした被災牛2とその仔牛および母牛(グループ3)の精子、筋肉あるいは血液からDNAを抽出した。DNAは、Sure Select Bovine All Exon Capture Sequence (Agilent Technologies)でタンパク質をコーディングする1-29番とX染色体の全エクソン領域を濃縮し、スニップとインデル(挿入・欠損部位)の頻度と位置を次世代シーケンサー(illumine, HiSeq2000)を用いて解析した。

【研究成果】

放射線影響関連候補遺伝子を抽出した結果、NLRP9, RPGR, SRPX, REPS2, TLR8, SETD8, BMX やOR2AK2, PLA2G2D3遺伝子への変異が、異なるグループの仔牛に共通して認められた。それら遺伝子の機能は、卵成熟、微小管、細胞接着、前立腺癌抑制、免疫、リシンメチルトランスファーゼ、チロシンキナーゼ、臭レセプター、加水分解酵素に関連する遺伝子であり、生命の維持に重要な役割を果たす遺伝子への変異は認められなかった。特記すべきことに、産子の外貌に異常は認められず、筋肉中の放射性物質の線量は検出限界以下であった。

【まとめ】

以上、旧警戒区域内で6ヶ月および2年間内外部被ばくした被災雄牛の仔牛において、放射線に関連した継世代影響は認められなかった。これらの結果は、福島県産の優良種雄牛の精子を用いて仔牛を生産した場合においても、その仔牛に放射線の影響が認められる可能性は極めて低いというひとつの科学的な根拠として活用できるとともに、福島畜産の復興と安全・安心の畜産物を提供することに貢献できると考える。