復興支援特定研究-05
研 究 題 目 |
福島県沖海水・海産物の90Sr 濃度測定 |
所属機関・役職 |
千葉大学 大学院理学研究科 准教授 |
代 表 研 究 者 |
河合 秀幸 |
【研究目的】 |
福島第一原発事故では90Srが約10PBq海洋中に放出された。Srはアルカリ土類金属であり、生体中ではCaと同様に骨組織に沈着し、生物学的半減期が50年程度と予想されている。また食物連鎖による濃縮も考えられ、体内被曝の点では90Srは137Csなどよりはるかに危険な核種である。福島県水産業の復興には90Sr濃度の全匹検査が必要である。90Srの計測は困難で、JIS規格に定められた90Sr測定法は一ヶ月程度の期間と計測1回当り数十万円の費用が必要である。我々は高エネルギー素粒子実験でよく用いられているシリカエアロゲルチェレンコフカウンターを用いて、自然放射能40Kや事故由来の137Csなどが混在していても時間のかかる化学精製などの前処理工程が不要で、大型魚一匹ごとに計測でき、1時間程度の測定時間で結果をすぐに判定でき、魚の商品価値を損なわず、放射線計測の専門知識を持たない一般市民が容易に取り扱え、1匹あたりの検査費用が数百円程度で、検出限界が1Bq/kgの90Sr測定器を開発している。これまでの90Sr濃度測定は可食部分のみで骨組織の調査はない。我々は独自の測定器を用いて多数の魚で部位ごとの90Sr濃度測定を当初の目的とした。 |
【研究方法と成果】 |
本研究開始時の2015年3月時点での我々の測定器は有効面積10cm×30cmで検出限界は20Bq/kgであった。本研究で有効面積20cm×50cmの測定器を製作する中で検出限界を下げるための以下の研究開発を行った。 宇宙線μ粒子を識別するシンチレーション検出器は当初有感領域を覆うように設置したが、有感領域外の光電子増倍管にμが直接入射する雑音事象の存在が判明したので、μ識別シンチレーターは測定器全体を覆うように配置した。 1マイクロ秒以内に複数回計数する事象が発生し、原因が浜松ホトニクス社の光電子増倍管高電圧供給ソケットE10679からの雑音と判明した。この雑音を除去する計数回路の開発に半年を要した。なお浜松ホトニクス社はE10679の販売を中止し、新たにE10679-02を開発し販売を開始した。我々にも本年7月に納品される予定である。 我々の測定器は1ナノ秒の時間分解能を持つが市販の信号処理回路の時間分解能は最高10ナノ秒である。研究室レベルでは最高25ピコ秒までの信号処理回路が存在するが運搬不可能である。そこで本測定器に搭載可能な時間分解能1ナノ秒の信号処理回路の開発を(株)Bee Beans Technologiesに依頼した。試作回路が本年7月に、量産回路が9月に納品予定である。 以上のように、1年余りを要したが有効面積0.1m2で検出限界1Bq/kgの90Sr測定器が本年9月には完成する見込みである。この測定器は試験研究機関には400万円で有償譲渡し、営利団体には650万円で販売する予定である。本年も競争的研究資金が確保できたので、福島県沖魚類の90Sr濃度調査は本年10月以降に実施する。 |