市村地球環境産業賞

第52回 市村地球環境産業賞 貢献賞 -02

鉄鋼スラグによる多様な生態系サービスをもたらす海の森再生技術

技術開発者 日本製鉄株式会社 技術開発本部 先端技術研究所 環境基盤研究部
主幹研究員 小杉 知佳
技術開発者 同社 スラグ・セメント事業推進部
主幹 木曽 英滋
技術開発者 五洋建設株式会社 土木部門
顧問 中川 雅夫
推  薦 一般社団法人 日本鉄鋼協会

開発業績の概要

1.開発の背景
 コンブやホンダワラなどの大型海藻の群落である海藻藻場は、沿岸の生態系の一次生産を担うだけでなく、魚の産卵場や生息場としても機能している。また、漁業、レクレーションの場など多様な生態系サービスを提供している。今回、我々は海水中の鉄分不足と海藻藻場の主要構成種であるコンブ類の鉄イオンの要求性に着目し、製鉄プロセスの副産物である製鋼スラグ中の鉄イオンを効果的に供給する海向けの施肥材ビバリー®ユニットを開発し、豊かな恵みをもたらす海藻藻場を造成する技術を確立した。

2.開発技術の概要
 製鋼スラグを鉄イオン供給材として活用するため、(1)陸域での鉄イオン供給のメカニズムに着目、キレート化の必要性を見出し、ビバリー®ユニットの基本構造である製鋼スラグと腐植土の最適混合に想到した(図1)。(2)海水と反応性の高い遊離CaOを含むためアルカリ溶出抑制と鉄イオンの溶出を両立できる炭酸化処理技術を開発した。その他、(3)沿岸域における長期的な鉄イオンの供給を可能にする施工技術や(4)効果を定量化するため沿岸海水中の極微量(ppbレベル)鉄イオンの分析技術も確立した。さらに、(5)確実性の向上させるため、沿岸環境を模擬した大型水槽システムを開発し、水産有用海藻への効果検証を行った。

3.開発技術の特徴と効果
 2014年にビバリー®ユニット45tを埋設した北海道増毛町別苅海岸では、約1.5haの藻場再生と1.8倍のウニ漁獲高の向上によって生態系サービスへの効果を実証した(図2)。
 これまでに展開した全国38箇所のうち調査した30箇所で再生できた藻場面積は約3.2haで、沿岸域でのCO2固定であるブルーカーボンとしては年間最大115t-CO2と試算している。

図1
図2