植物研究助成

植物研究助成 33-01

自然光下にある植物の緑色光の光合成利用を定量的に評価する

代表研究者 大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 アストロバイオロジーセンター
特任研究員 河野 優

背景

 陸上植物は400-700 nmを光合成に利用する。光合成有効放射のうち、青色光と赤色光は特に光合成と気孔開口に重要とされ、栽培環境や光合成測定装置などに使われてきた。緑色域(500-600nm)が無視されがちなのは、「葉が緑色に見えるのは、葉が緑色光を吸収しないからである」、「緑色光は吸収されないのだから、光合成には使われない」といった誤解に由来する。しかし、実際に緑葉の吸収率を測定すると、緑色域の吸収率も0.8ほどになり、吸収された緑色光は効率よく光合成に使われる。

目的

 緑色光と光合成との関係を葉の解剖学的特性に着目して明らかにする。本研究は、野外植物光合成の、緑色光利用を定量的に検証する。緑色光による光合成が1日の光合成量に占める割合を明らかにし、赤色光や青色光の届かない葉内深部の葉緑体の光合成を緑色光が駆動する効率を定量する。異なる生育光環境下の様々な植物種について調べ、種依存性や光環境の影響についても明らかにする。

方法

 熱海の研究植物園および大学構内の植物を利用する。光合成CO2ガス交換測定装置を用いて、裸地や林床に生育する草本植物の光合成を測定する。
1.白色光もしくは太陽光に、緑色光か赤色光を補光したときの光合成速度の増大を評価する。
2.太陽光から緑色光域のみを除いた際の、光合成速度の減少を評価する。
3.葉の吸収率スペクトルを測る。葉の横断面を顕微鏡で観察する。
4.数理解析を行い、緑色光が1日の光合成量に寄与する割合を見積もる。

期待される成果

 裸地の強光環境下の植物では、緑色光が葉内全体の光合成飽和に果たす貢献度は青色光や赤色光よりも大きいことが予想される。植物種や生育光環境による貢献度の違いについて、葉の解剖学的特性や吸収率スペクトルと併せて比較することで、最も緑色光効果の高い波長域と、それを説明する具体的な葉の光学的性質について重要な指針が得られると考えられる。この研究をきっかけに、光合成を研究対象として扱う際の「光の扱い方」に注意を促すだけでなく、植物工場や光合成強化植物の創出などにおいても再考を促すことになる。