植物研究助成

植物研究助成 33-02

伊豆諸島神津島のセンブリで見られる奇形花集団の系統的背景と適応度の評価

代表研究者 兵庫教育大学
助教 山本 将也

背景

 八重咲き品種などに代表される花の奇形は農学・育種の分野で特に重要な現象であり、すべての被子植物に生じうる普遍的な現象の一つである。しかし、進化生物学者の多くは、こうした奇形を適応度の低下をもたらすだけの現象として捉えており、植物の進化と結びつけて議論することはほとんどなかった。したがって、花の奇形が維持される機構や進化で果たす役割については実証研究に乏しく、理解が進んでいない。

目的

 伊豆諸島の神津島には、集団の半分の個体が奇形花をつけるセンブリが存在する。現地調査からは、その花の奇形が一過性のものではなく、毎年継続して現れることもわかっている。センブリは二年草であるため、この集団では花の奇形をもたらす遺伝的変異が世代を超えて維持され続けている可能性が極めて高い。つまり、この奇形花集団は、花に奇形をもたらす悪適応な遺伝的変異がなぜ維持されるのか調べるのに都合が良い。そこで、本研究では、神津島のセンブリを対象として、奇形花集団の起源とその維持機構、そして、進化に与える影響について解明することを目的とする。

方法

 本研究では、(1)集団遺伝解析による奇形花集団の成立過程の推定、(2)倍数性の評価、(3)奇形花集団の適応度評価を行う。具体的には次の手順で進める。
 (1)神津島を含めて、センブリの分布を網羅した集団サンプルを用いてゲノムワイドDNA解析を実施し、大量の塩基配列情報を取得する。集団遺伝学的解析から、奇形花集団がいつ・どのように成立し、現在どのように集団を維持しているのかを推察する。(2)倍数性の影響を調べるために、染色体観察とフローサイトメーターによる倍数性解析を行う。(3)花形態の定量分析、結実率と訪花昆虫の調査に基づき、1個体あたりの適応度を算出することで奇形花が適応度に与える影響を評価する。

期待される成果

 花の奇形とその維持機構に関する研究は世界を見ても2例しか報告されておらず、さらなる実証研究が求められている。奇形という現象が植物に広く共通する現象であることを鑑みれば、本研究の成果は単なる事例研究として扱われることはなく、植物の適応進化や種分化に関連した多様性研究全体に還元される知見をもたらすことが期待される。