植物研究助成

植物研究助成 33-03

UAVレーザースキャナを用いた植生帯境界における森林構造の把握

代表研究者 東京都立大学 大学院都市環境科学研究科
教授 吉田 圭一郎

背景

 地球温暖化による植生変化が世界中で報告されており,特に植生帯境界では森林構造の変化が顕在化しつつある(IPCC 2022).地球温暖化への適応策を考えるためには,植生帯境界の森林構造を高精度で把握することが急務である.
 山地斜面に形成された植生帯境界の森林構造は,気温だけでなく,地形によっても異なる.また,常緑−落葉広葉樹林の植生帯境界は,標高に沿った常緑広葉樹の樹高低下により形づくられることが示唆されている.しかし,森林域での地形測量や植生調査には多大な労力を要するため,植生帯境界における樹高分布などの森林構造の把握と地形との関連性についての検討は不十分であった.

目的

 そこで本研究では,UAV(小型無人機,ドローン)に搭載したレーザースキャナ(LiDAR)により高精細な地表面と森林の三次元点群データを取得し,植生帯境界における森林構造を高精度で把握することを目的とした.そして,植生帯境界における森林構造の空間変化,特に常緑広葉樹の樹高分布を明らかにし,森林構造と地形との関連性について検討する.

方法

 本研究では,箱根・函南原生林(静岡県函南町)に見られる常緑−落葉広葉樹林の植生帯境界を対象とする.まず,UAVレーザースキャナを用いた低高度からの高密度レーザー測量により,地表面と森林の三次元点群データを取得する.落葉広葉樹の林冠下に生育する常緑広葉樹の樹高計測のため,着葉期だけでなく,落葉期にもレーザー測量を行う.取得した点群データから林冠層(DSM)や地表面(DEM)を抽出し,樹高分布(CHM)などの森林構造を把握する.そして,高精度測位により対比される既存の植生データにより検証し,地理情報システムを用いて地形情報と森林の三次元構造との関連性について空間解析を行う.

期待される成果

 森林構造の高精度な把握は,地球温暖化による植生変化をモニタリングする上で残されてきた課題である.本研究は,まだ森林への適用例が少ないUAVレーザースキャナを用いてこの課題を解決するもので,植生帯境界における森林構造の新たな計測手法を提示するものとなる.また,本研究により,UAVの機動性や再現性を活かした植生変化の効率的なモニタリングシステムの確立につながることが期待できる.