植物研究助成

植物研究助成 33-04

東日本太平洋側地域に着目した高感度景観遺伝解析による海浜植物の海流分散機構の解明

代表研究者 お茶の水女子大学 基幹研究院自然科学系
講師 岩崎 貴也

背景

 海浜は、貧栄養な土壌、高い地温、塩水の暴露などの特殊な条件の環境であり、これらに適応できた海浜植物のみが生育している。各集団は孤立した島のような状態で分布しており、多くの種では海流・潮流(以下、海流とする)による種子分散が集団間の交流や集団形成に大きな役割を果たしていると考えられる。しかし、複雑な地形・海流の地域内で、海流が集団間での種子分散にどのような影響を与えているのか、どのような集団が遺伝子のソースあるいはシンクになっているのかなど、海流分散機構の詳細は明らかになっていない。

目的

 東日本太平洋側地域に着目し、長期間(60日以上)の海水浮遊が可能なハマエンドウと、短期間(5日程度)しか海水浮遊できないケカモノハシの海浜植物2種を対象とし、超多型遺伝マーカーと海流分散シミュレーションを組み合わせた景観遺伝解析によって、海流の動きや景観構造(周辺地形や分布適地、海浜の規模など)、海水浮遊能力の違いなどが、海浜植物集団間の遺伝子流動や遺伝的特性にどのような影響を与えているのかを明らかにする。

方法

 2023年度に調査が不十分であった地域(伊豆半島南部、伊豆大島、三宅島、外房、東北地方北部太平洋側)で調査を行い、ハマエンドウとケカモノハシについてDNA解析用サンプルを採集する。既にMiCAPs法で得た核マイクロサテライト配列近傍領域の塩基配列から、特に高多型な遺伝マーカーを50以上設計する。次世代シーケンサーを用いて対象領域の解析を行うことで、効率良く大量の遺伝子型の決定を行う。その結果を元に、長期的、あるいは短期的な遺伝子流動を方向性も含めて推定し、種間の浮遊能力の違いや各集団の地形的特徴、海流分散シミュレーションによる集団間の接続性との間の関係性を景観遺伝学的解析で明らかにする。

期待される成果

 近年、海浜環境は都市開発や護岸工事などで全国的に減少しつつある。本研究で海流や地形的特徴が遺伝子流動に与える影響を解明することで、海流で種子分散を行う様々な海浜植物の保全に役立つ知見を提供できる。また、他の海浜植物はもちろん、様々な地域・生物について広く適用可能な新しい高感度景観遺伝解析のアプローチを確立できる。