植物研究助成

植物研究助成 33-09

レーザー分光法によるNOyフラックス計測装置の開発と森林観測への応用

代表研究者 帝京科学大学
教授 和田 龍一

背景

 化学肥料の生産や農作物の栽培,化石燃料の燃焼といった人間活動により,環境中に大量の窒素が蓄積されている.人類が反応性窒素を作り出してそれを加速度的なペースで環境に排出しているのは,多くの国がバイオ燃料作物や食肉の生産など,肥料を多用する取り組みを活発に行っているのが一因である.とくに森林では植物や微生物の吸収量を超える窒素酸化物が大気・降水から流入し,生態系で蓄えきれなくなった窒素が硝酸イオンとして渓流水に流出する.このような現象を窒素飽和と呼び,飲用水や湖沼・内湾の富栄養化など様々な環境問題を引き起こしている.しかし地球を循環している窒素の収支を知るうえで,森林生態系と大気のガス交換の情報は限られている(Wada et al., 2023).窒素循環問題における森林が果たしている現状の役割を明確にし,窒素飽和等の環境問題の解決・抑止につなげていく必要がある.

目的

 本申請研究では,渦相関法により,総反応性窒素酸化物(NOy)と呼ばれる窒素酸化物群のフラックスを高精度に測定可能なレーザー分光法の原理を用いた分析装置を開発する.開発した分析装置を用いて,森林生態系におけるNOyフラックスの日変化と季節変化を定量的に明らかにする.同時にオゾンフラックスと環境因子を合わせて解析し,森林生態系におけるNOyの沈着・放出の機構を理解し,大気環境・森林環境の保全に役立つ知見を得る.

方法

 新たに開発するNOyフラックス計測装置は,600℃で加熱したサンプル口に大気を通すことでNOyを二酸化窒素(NO2)に熱分解し,熱分解したNO2をレーザー分光計測装置で計測することで行う.本申請では,NOyをNO2に高速かつ安定して熱分解する前処理装置を検討し,NO2レーザー分光計測装置と組み合わせNOyフラックス計測装置を開発する.開発した計測装置を用いて,富士吉田アカマツ林微気象観測タワーにて渦相関法によるNOyフラックス計測を行う.

期待される成果

 国内では例のない森林生態系におけるNOyフラックス計測手法を確立することで,今後様々な森林における窒素酸化物の放出・吸収沈着量のデータを蓄積することが可能となる.窒素酸化物の発生源と吸収源の理解,および国内での大気環境・森林環境の保全に役立つことが期待できる.