植物研究助成

植物研究助成 33-11

人間活動が草原性植物のポリネーターシフトに与える影響_伊豆諸島自然草原と伊豆半島半自然草地との比較

代表研究者 新潟大学 佐渡自然共生科学センター
准教授 阿部 晴恵

背景

 広域分布種のツリガネニンジンは全国の沿岸部から畔畑、亜高山帯に至る草原に分布する多年生草本である。伊豆半島を含む本州でのツリガネニンジンの主要な送粉者は、夜行性ガ類であることが報告されているが、伊豆諸島三宅島の集団では昼行性のハナバチ類の訪花が多く、送粉者シフト(ポリネーターシフト)が起こっている(岡崎ほか 未発表)。そこで、伊豆半島集団と伊豆諸島神津島・新島集団の送粉者及び捕食者の群集組成を比較することで、その究極要因を明らかにすることを目的とした研究を行ってきた。その結果、伊豆諸島三宅島と神津島では夏季に開花するのに対し、本土では初秋に開花しており、開花フェノロジーが異なること、また伊豆半島では定期的な草刈りが行われる半自然草地に生育するのに対し、神津島では自然草原に生育しており、生育環境に違いがみられた。さらに、神津島ではヤガ科のガ類が観察されなかった。以上より、①伊豆半島では草刈りにより生育が遅れて、本来の開花時期である夏季から初秋にシフトしていること、②開花時期が異なることから、開花期に活動する送粉者相の種組成に違いがみられるという仮説が立てられる。一方で、③島では地理的隔離により送粉者相が単調化し、自殖により繁殖補償を行っていることが考えられた。

目的

 本州ではお盆を中心とする夏季に畔や道脇の草刈りをすることが多い。その結果、ツリガネニンジンの花期が秋にずれ、ハナバチ類の活動時期が終了し、蛾による夜間送粉がメインになった可能性が考えられる。そこで、先行研究で指摘されている「島で夜行性から昼行性の送粉者にポリネーターシフトが起こった」のではなく、「自然草原が多く残存する島ではハナバチ類などを含む多様な訪花昆虫による本来の相互作用系が維持されているのに対し、本土では人による継続的な草刈り効果がポリネーターシフトを駆動してきたのではないか?」ということを仮説とし、ポリネーターシフトを規定する進化及び人為的要因を明らかにする。

方法

 異なる地域(自然草原の島vs半自然草地の伊豆半島)、異なる開花時期(夏季vs秋季)、人為的影響(自然植生vs人為的な草刈り)の3点に着目し、カメラ等を用いた送粉者の相違や開花フェノロジーと送粉者相の変動を調査する。その際、実験区を用いて草刈りの影響で花期が異なるのかを検証する。自殖の有無について、人工受粉実験による結果率を比較し、遺伝解析で自殖の有無を判定する。

期待される成果

 時空間的に人が生態系に与えてきた影響を考慮したうえで、送粉生態学および島嶼生態学のような基礎研究を行う必要性があることを提言できる。これは、生態系の特異性や多様性の理解における人との関係を整理し、その結果、里地における草刈り時期や方法についての提言を行う保全生態学的な成果にも繋がる。