植物研究助成

植物研究助成 33-12

訪花昆虫類の餌となるサクラ類の花資源の種・品種間多様性評価

代表研究者 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所
主任研究員 中村 祥子

背景

 日本のサクラ類は、特定外来生物クビアカツヤカミキリに食害され、枯損等による伐倒が増加している。特に国内に数百万本以上ある栽培品種‘染井吉野’は被害が大きい。「‘染井吉野’伐倒後もサクラを植えたい」という要望は強く、被害木伐倒後、後継木となるサクラ種・品種の選定が急務である。サクラ類の花粉や花蜜は、植物の花粉媒介を担う訪花昆虫類の餌として重要である。日本のサクラ類は、約10種の野生種と100以上の品種から成る遺伝的に多様な分類群で、花蜜や花粉の量や質も多様だと考えられる。‘染井吉野’に比し、訪花昆虫類をより多く支えることができる種や品種を解明し、開花期や病害耐性等の既知情報と総合することで、サクラ類の生態学的機能の多様性情報を活用し、地域植生の花粉媒介を担う訪花昆虫類の保全を強化する後継木選定が可能となる。

目的

 訪花昆虫類を支えるサクラ類の生態学的機能と、その機能の多様性を解明する。そのために、サクラの野生種約10種と、野生種に由来する主要な栽培品種を対象に、花蜜、花粉の質・量と、訪花昆虫が認識している花弁の紫外線反射パターン、花に来る訪花昆虫の多様性を明らかにする。

方法

 全国各地の多様なサクラ約1500本が植栽され、野生種に加え600以上の系統を収集・保存している多摩森林科学園(代表者所属機関)のサクラ保存林等にて、サクラの野生種約10種と主要な栽培品種を対象に、①花蜜・花粉の量・質と花弁の紫外線反射パターン、②訪花昆虫の多様性を解明する。そして、多摩森林科学園にて蓄積されている病害耐性や開花期の情報を総合し、③‘染井吉野’伐倒後、訪花昆虫類をより多く支えることができる後継木候補を複数選定する。

期待される成果

 被害を受けた‘染井吉野’の伐倒後、後継木として、花粉媒介昆虫を支える形質の強い複数の種・品種のサクラを植栽することで、豊かな花粉媒介サービスの持続的活用を促進できる。また、後継木候補の種・品種は、多様な花の色・形や‘染井吉野’と異なる開花期を持つため、地域住民への文化的サービスの充実も図られ、生物多様性に関する市民の保全意識の向上も期待される。