植物研究助成

植物研究助成 33-13

自然かく乱後の絶滅危惧塩生植物群落の再生と遺伝的多様性の評価

代表研究者 中部大学 応用生物学部環境生物科学科
准教授 程木 義邦

背景

 河川や海洋の沿岸域に生育する塩生植物や海浜植物は、洪水や高潮などによる自然かく乱に適応した生活史を持つ。そのため、かく乱の頻度が低下すると、ヨシや陸上植物の侵入により生育地が縮小し、個体数の減少と遺伝的多様性の低下により絶滅リスクが高まる可能性がある。しかし、これら塩生植物の絶滅要因としては、河川改修による砂州や湿地など生育地の直接的な消失が指摘されることが多く、かく乱の重要性やかく乱を利用した保全対策の検討は行われていない。

目的

 本研究では、自然状態で生じる中程度のかく乱は、環境を改変し競争的関係にある種を排除する効果があり、絶滅危惧種の個体群サイズや遺伝的多様性を回復させるという仮説を検証する。三重県の宮川と櫛田川の塩生植物群落を対象とし、2023年8月の台風7号による出水に注目し、かく乱が塩生植物の遺伝的多様性と個体群サイズに与えた影響を評価する。

方法

 三重県の宮川河口から4km付近には、フクドやホソバハマアカザ、ハママツナなどからなる伊勢三河湾でも有数の規模の塩生植物群落が存在したが、2023年8月の台風7号による出水により、生育していた成熟個体がほぼ全て消失した。しかし同年10月頃には、裸地となった砂州や河原では、再びフクドが発芽し、植物群落の回復が始まっていることを確認した。そのため、2022年度に貴財団の助成を受け調査を行った地点で再び調査を行い、出水前後における植物群落の種組成や個体群サイズ、遺伝的多様性の変化についての評価を行う。また、台風の影響が比較的少なかった三重県の櫛田川河口干潟の塩生植物群落を対照区として同様の調査を行い、台風によるかく乱前後の変化を評価する。

期待される成果

 これまでの塩生植物の保全策としては、保全地域の周りに堤防や潜堤を作り、土砂流出などによる生育地が縮小しないよう保護する方法が行われてきた。しかし、塩性湿地の地形や環境を安定させる保全対策は、長期的にはむしろ負の影響が大きく、定期的な中規模のかく乱を許容することが絶滅危惧塩生植物の保全対策として重要であることを検証する。そのため、本研究による成果は、これまで行われてきた塩性湿地の保全方法や理論を大きく軌道修正するものであり、今後の絶滅危惧塩生植物の保全に大きく貢献するものとなることが期待できる。